おしどり夫婦

西軍










「ユルサーン!!」

「誰ですユルさんて」

「そんなボケもユルサーン!」

「左近はユルさんじゃありません」

「そうなの?」

「わ、その不思議な再確認いやですねー」

「先人も言っただろう。いやよいやよも好きのうち、と」

「嫌いという言葉がなにひとつ機能しない世の中になったもんだ」

「よく考えてみよ。逆説的に捉えるのだ」

「好きよ好きよはイヤのうち?」



(あ、三成殿と島殿だ。今日はなんの話をしておられるんだろ)ひょこっ

(多分愛について語り合ってるのだろう。義だな)ひょこっ



「左近は俺のことが好きだとよく言うがそうだったんだな」

「そんな、好きなわけないじゃないですか!大嫌いですよ!」

「左近…、感動だ。俺もお前が大嫌いだ」

「ありがとうございます」



(じっ、実は仲が悪いっ)

(あんなに愛あふるる表情で憎まれ口をたたき合うなんて…愛だなあ)

(そうなんですか?)

(なんじゃなんじゃー?)ひょこっ

(秀吉殿!)



「でもこの世一番嫌いなのは秀吉さまだ」

「やっぱりね。左近よりもですか」

「ムロン。あのヒゲとか声とか兜とか存在が」



(……)

(…ひ、秀吉殿…)



「左近、聞いて驚け。俺は以外と兼続が大嫌いだ。して、慶次も嫌いだ」

「えっ、そうなんですか。意外ですな」

「ああ。秀吉様の次くらいに嫌いだ」



(……)

(…ふっ、不義不愛の輩を討てー!!)

(お、落ち着いてください兼続殿)



「真田殿よりも嫌いですか」

「…天秤にかけると、釣り合う感じだ」


(……)

(ゆ、幸村?そう気落ちしなさんなって?わしなんか一番嫌いだぞ?存在自体をな?否定されたんじゃぞ?)


「と、いうのは冗談で、兼続はとても好きだ」


(三成ー!私の布団へカモーンベイベッ!)ばちこーん

(なんでこやつが…)

(なんだかむしょうに歯を抜きたいです)


「え?好きなんですか?」

「いや、好きというと語弊があるな…。得意だ。俺は兼続が得意」

「得意、得意…、ああ」(苦手なのか)



(…言いかえられた…、好きから得意に…)



「左近はどうなんだ」

「え、兼続殿ですか? えーと…、お…つまらない方かと」

「つまらない…」(おもしろいか…、たしかにおもしろいな)



(…丁寧に言われた…、おつまらないって微妙に丁寧に言われた…変な間を作られた…)

(なんだか兼続殿がものすごくかわいそうに見えてくるマジック)

(お、どおーうしたんだいみんなして。傾こうや)ひょこっ

(慶次…空気を読め…)

(あーん?)



「あ、慶次だが忘れていた」

「直江殿がインパクト強いですからね」

「慶次は普通にす…嫌いだぞ」

「そうなんですか?なんだか得意そうでしたけど」



(す…嫌い?…酢、嫌い?いやあ、嫌いそうに見えたかねえ?)

(…)



「まあでも人の嫌いやら好きやらなど簡単にわけられないな」

「そうですねえ」



(さんざん言っておいて!)