おしどったり

西軍










「左近、今日は見回りだ」てけてけ

「はいはい」てけてけ

「む、異常発見」

「あれは、直江殿?」

「シーマードーノー!」走

「島戸の、なんですか。島戸がどうかしたんですか」

「島殿!そんなボケは不義だ!」

(島戸のどんなボケが不義なんだろう)

(やべーこの兄ちゃんおもしれー)

「で、なんの用だ」

「あ。 おほん。私は本日から他人にシラけられぬようなおもしろい人間になろうと思う」

「は?」

「見てくれ!生まれ変わった直江・義・兼続を!!」ばっ

「…!」

「そ、それは…」

「赤フンドシだ。情熱的な愛と煩悩を意匠に表現したこのバラフンドシを見てくれ」

(見てくれて。見てくれって。なんだこいつチマタで流行りの露出狂か、なに普段は流行とか疎いくせにいきなり時代の最先端なのだ。ていうかコイツの笑いのセンスわかんねえ)

(やべーこの兄ちゃんリアルにおもしれー)

(わかんねー本気でわからぬ。そもそもなぜいきなりそんなことを言い出したのだ意味がわからぬ。そんな意味のわからぬおもしろさ追求するんだったら真の義でも追求してればいいのにというか義ってなんだ?)てけてけ

(ほんとにおもしろい方だなあ)てけてけ

(わからぬホントに。ああもう苦手だ、直江兼続)てけてけ


「置いてきちゃったけど…大丈夫ですかね?」

「もうアイツの話はするな」

「お口にチャーック」

(左近はどうしてしまったのだろう)

「おや…?あそこにいるのは」

「誰だ。あそこは秀吉様の…」

「不法侵入者でしょうかね」

「よし、カツ丼を持て。事情聴取だ」

(あ、やべえ。さっき食っちまった)

「そこの者、面をあげい!」

「みっ、みつなり…」

「? なぜ俺の名を知っているのだ」

「殿、こちらを」

「む、これは秀吉様愛用の後光兜…、なんと無惨な!貴様、これをどなた様のものと存ずる!」

「この紋所が目に入りませんか!」

「左近だまれ」

「みっ、みつなり、わしじゃ、秀吉じゃ」

「貴様、秀吉様の名を騙るか!この愚か者が!」

「秀吉様はそのようなドスのきいた声じゃあないですよ」

「こ、これは…」

「秀吉様の愛用後光兜をめちゃくちゃに壊し尽くしたあげく、秀吉様の名を騙るとは!」

「ええいこの紋所が目に入りませんか!」

「入れられるわけないじゃろ」

「ふん、今、貴様が秀吉様の偽者であることが白日の元さらされた」

「なに?」

「秀吉様は、紋所を目に入れられる」

「なにーっ?!」(わしいつからっ)

「秀吉様は紋所を目に入れるし耳にも入れる。紋所を折り曲げるし絞るし、枕にして毎夜毎夜愛撫もする。毎朝メイクアップもしてあげるし叩き壊したりもする。俺の知っている秀吉様は、紋所を食べる!そして種を庭に蒔き栽培もする」

(三成は普段、誰をわしと間違えているんじゃろうか…)

「だいいち、秀吉様にはヒゲが生えてらっしゃる」

「これは剃ったんじゃ!」

「見苦しいぞ」

「…ねねに言い付けちゃるわー!!三成のバーカバーカ!オタンコナース!ヒッキーオタッキートリッキー!」去

「…」

「殿、追わなくても?」

「…なんか、アレ、秀吉様に見えてきた…」

「…忘れましょう」

「さあ左近、見回りの続きだ」てけてけ

(いつまでたっても思考回路がトリッキーだなあ)てけてけ

「次はどんな出会いが待っているのだろうな」てけてけ

「もう出会いなんていりませんよ」てけてけ

「そうなのか?」てけ

「殿と出会えただけで左近は幸せです」きらきら

「左近…感動だ!」きらきら

「殿っ!」がばっ

「ああっ、左近!エイズは同性同士の性交からうつるらしいぞ!」

(トリッキーだ……)

「お、昼間っからお熱いねえ」ひゅーひゅー

「…前田殿」

「邪魔しちまってわりいな。傾きながら退散するとすっかねえ」

(コイツ、昼間っから呑んでるのか?)

「…と、三成に用があったんだ」てけてけずべっ

(転んだ)

(大男が転んだ)

「…見た?」

「…」ふるふる

「そいつぁよかったよかった」

「で、用事とはなんだ」

「コイツ、なんだかわかるかい」

「…酢、か?」くんくん

「酒じゃなかったんですか」

「いいか、見てろよーっ」ぐびっぐびっぐびっ

(ひっ、ひいいいいい!!)

(酢を一気飲み!?)

「……っぷはぁ」

「へ、平気なのか…?胃に穴とか」

「俺ぁ、酢が大好きだ。わかったか?」

「十分すぎるほどに…」

「うん。 じゃあな、邪魔したな!」てけてけ

「あ、ああ…」(傾奇者ってわかんねー)

(今日もかたむいてるなあ)



「思わぬ出会いだったな」

「滅多に見れないようなものも見れましたしね」

「そろそろ帰るか。ツカレタミツナリ」てけてけ

「そうですね」てけてけ

「あれ、あれは幸村じゃないか」

「なにしてるんでしょうね」

「賭けるか?」

「真田殿ー」

「シカトかあ。まあいいや。幸村ー」

「あ…、三成殿」

「うおっ、幸村なんだお前!口元が血まみれだぞ!」

「ちょっと歯を…」

「抜けたんですか?」

「抜いていました」

「抜いていたのかっ!」





おわり




05/06