「幸せの対義語を知っているか」
「幸せの?」
「そうだ」
「さあ、不幸、不幸せでしょうか」
「幸せにあらず、だから不幸、と」
「逆かもしれませんな」
「不幸のうえに幸せが成り立つ、と。ふむ。悲観主義的だな」
「生きていることを幸福とするか、不幸とするか」
「幸せに生きることが当然であるから、不幸はとってつけた名前。幸福が前提なのだ」
「幸福であることを願うのが前提。不幸しか見えないから不幸を後回しにした。現実逃避かもしれません」
「へりくつだな」
「そうです、へりくつです。生きることは不幸」
「幸福」
「精神が肉体に閉じ込められる不自由の世界」
「自らの足で実現できる世界」
「他者の介入を恐れる世界」
「他者と触れ合うことのできる世界でもある」
「生きることはまこと、不自由です」
「死にたいのか?」
「いいえ」
「なら幸福だろう」
「だが望んでいなかった」
「産まれた時点でお前は生を望んだ。生きる力を欲した」
「ただの本能だ。感情とは別物だ」
「生きることとは、まこと、へりくつの連続だな、左近」
「そうです。なにかにつけて理由をつけたがるものです」
「ならば、幸福の反意語は?」
「たぬき、とでも言っておきましょう」
「ふ……、傑作だ」












08/08