水というものは古来から不思議な力を持っていると言われていた、ということを最近に知った。
それから水を見る目が少し変わってきた。
ある日、何気なしにどれほど不思議な力というものがあるのかというものを見てやろうと水を張った桶に頭を突っ込んでみた。それだけならば何も変わらなかったと思う。
でも、その中で目を開けてみると、桶の中だというのに見知らぬ風景が広がっていた。
他の市松や虎之助が変な顔をして俺の肩を叩き、俺は強制的にその世界から立ち退くことになった。

「佐吉、おかしい」
「うん、変だ」

口々にそう言いながら二人はどこかへ行ってしまった。
俺はこの世界のことを二人に話して共有してみたいとも思ったが、この自分だけの神秘を他人に教えるのはもったいない、という気持ちもあり、結局誰にも言わなかった。



大人になってからも、俺は誰にも言っていない。
あいかわらず誰かと共有してみたいと思いはするが、正則や清正とは仲が顕著に悪くなり、とてもじゃないがそんなことを言う気にはなれない。
左近にだって言っていない。
別に信頼がどうとかそういう問題ではなく、こうも今までひとりで楽しんできたことなのだから、誰にも言わないという意地みたいなものだ(それでも、あまりに美しい情景を見た日には誰かと語り合いたくはなる)。

湯殿で浴槽に頭まで浸しながら、呼吸の続く限りにそれを求め続ける。










08/25