「変革よ、歓迎しよう」
「変革? なにを言っている。あるべきものを守るための戦ではないか」
「いいえ、これは変革ですな。常識をひっくり返しましょう戦の変革です。きっと未来には殿のお名前が残っているでしょうな」
「ふん、そんなものいらんな。むしろ俺の名前など残らぬほうがいい。秀吉様、秀頼様のお名前がお残りであられれば充分だ」
「変わった人だ。後世に名を遺そうと働く者たちが多いなかで」
「名が残ったところで、俺はそれを知ることがないからな。ものの役に立たん。それともお前は、後世に名を遺したいのか?」
「いりませんよ、そんなもの。左近は殿のために生きているのですから、殿のお名前が残れば十分です」
「ほら、そういうものだ」
「ああ、本当だ。なら、左近と殿は変わった主従ということになりますな」
「主従? 同志だろう。間違えるな」
「……そうですね、同志、ですね。なんとも甘い響きだ」
「甘いと言えば、団子だ。団子が食べたいものだ。兵たちも戦が続けば味噌を塗った握り飯にも飽きてこよう。全てがひと段落したら、できうる限り甘いものを食わせてやりたいな」
「合わせて十万もいるのに」
「ならば、頭にそう言えばいい」
「そうですねえ。ま、帰るころには何人になっているのやら」
「なにもかもが終わったら、平素通り豊臣家に仕えて、あと十年、二十年もしたら隼人正に家督を譲って隠居するだろう。そのときには左近と、花見でもしながら団子を食ってみたいものだ」
「殿」
「なんだ」
「珍しいですね、お喋りなんて」
「そうか。そうだな。そういえば、そうだな。おかしいな、俺は。目の前に戦が迫っているというのに、こんな空想をしているなんてどうかしていた」
「いいえ。殿がご隠居されるまで、左近が生きていればいいですな」
「生きるだろう。しぶとい男だからな」
「さ、そろそろ休まれますか。明日は早い」
「左近」
「はい」
「生きるよな、お前は」
「無論」
「そうか。無粋なことを聞いた」
「いいえ、とんでもありません。身を案じていただけるだけで左近も救われます」
「悲劇よ、歓迎しよう」
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