ごん、と鈍い音がした。俺の頭で。
なんだか大きなもので殴られたらしい。結構痛い。
「?」
振り返ると、殿がその大きな扇を持って口笛を吹いてそっぽを向いていた。
じんじんと痛みを増す後頭部。
なにが理由で殴られたかは知らないが、これはとても不当な出来事だろう。殿の不満の発散は常に俺が相手なのだから。
そこで俺は、殿の頬をつねってやった。
「いひゃっ」
頬を引っ張ったせいか、妙にくぐもった声をあげて、涙目で俺を睨みあげる。
そして、意外と筋肉のあるその腕で、俺の自慢のもみあげを掴んで、引っ張った。
「あいだだだだだ!」
ぶちい、という生々しい音が俺の頬でした。
殿が、抜けた俺の毛をパッと掃う。床に俺のもみあげが落ちた。顔の毛は、なぜか抜くととても痛い。
俺は眉間にしわがよるのが自覚できた。
そこで殿のそのツノを引っつかんで、引っ張った。
「うおっ」
意外と強く根を張っているのか、なかなか抜けない。
ようやく抜けたと思ったら、殿はその勢いで床に倒れていた(これは俗に言う、ヤりすぎ。おっと)。
しばらく沈黙していたかと思ったら、のそりと起き上がり、床にあぐらをかいたまま俺を睨み上げてくる。鼻は赤いし、目は涙目だし、ひどい顔だ。
そして殿は、意外と筋肉のあるその腕で、俺の自慢の大筒を、まるまる鷲づかみ、引っ張った。
「ぐおああ!」
身もだえどころの問題ではない。死活問題だ。
今までに感じたことのない恐ろしい痛み。世界が白黒する。
床でのた打ち回りながら、大筒が不能になった場合のことを考える。想像もできない。痛い。
どうせならもっとやさしく触ってくれればいいのに。
「ヤらせてください」(責任取ってください)
「俺が介錯してやろうか」
このこどもには、どうしてか逆らえない。
同時に、このこどもも俺に、どうしても弱いということを知っている。
俺、優勢。
10/11
(白雪姫コンプレックス)