「見よ、美しい景色だ」
「殿から景色を愛でる言葉が出るとはねえ」
「うるさい」

鼠色の空から、雪が落ちる。冷え切った指先を差し出して、その冷たい花弁を捕らえる。それはすぐに消えてしまった。
濡れた手を、どうしたらよいのかわからなかった。

「抜け殻ですな」
「全て終わった」
「これからも忙しくなりましょう」
「これでよかったのだ」

思いの外、自分に言い聞かせるようになってしまった、甘味を含んだ自分の声音を取り消すことはできない。事実だからだ。

「これで、ああ。よかった」
「変なおひとだ」

また花弁を捕らえた。だが、すぐに消えてしまう。数え切れぬほどの輪廻。
すると、左近の手が現れた。それは俺の手が掴まれる。

「こんなに冷え切って」
「全て終わった。これから始まる」
「寂しいんですか」
「なにが」
「家康がいなくなって」
「ばかもの。そんなことあるまい。彼奴が消えたことにより、豊家万代は約束されたようなものだ」
「だが、あまりに犠牲が出すぎてしまった」

そうだ。その通りだ。だが、それもしかたのないことだ
そう知っている。

「あなたが眠れるのは、いつでしょうね」
「夜に、決まっているだろう」

握られた手の向こうに、雪が積もっていた。











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