「まったくの愚問だな」
「色気ないですねえ」
「そんなもの、あってたまるか」

古ぼけた幹に背を預け、互いの吐息がかかるほどに近い顔を、苛立ちに歪ませている。
衣越しに体温が伝わった。

「甚だおかしすぎて、なにも言葉が出てこない」
「質問が? 状況が?」
「どちらも。片腹痛い」

目をそらして、見たくもないという意思をあらわにする。
片腹痛いと聞いて、手を陣羽織のなかに忍ばせる。すると、ぴしゃりと俺の手が叩かれる。

「痛い」
「貴様は女が好きなのだろう」
「ええ、そうですとも」

手首を掴む。反抗しようとめいっぱい力をこめているようだが、ほとんどむだに終わっている。俺の腕力に勝てるほどの力は、このひとにはないのだ。

「俺は男だ」
「もちろん、知っていますよ」
「それでは一体、どういう」
「先ほどの問いに対するお答えは?」

頑なに体を守る布。手袋を歯で挟んで引っ張った。そうはさせまいと拳を握ったが、指先を甘噛みしてやれば、まるで処女のように力を緩める。
顔を見る。羞恥と屈辱に埋もれた表情に優越感を覚える。

「だから、愚問だと言っている」
「いやですねえ。左近は真剣なんですよ」

手を覆うものがなくなって、日に当たっていない白い手、少し汗ばんだ手が現れる。
指先を舐める。
爪を立てられた。
鉄のような、独特な風味が口のなかに広がっていく。

「おやおや、爪を立てるのは背中だけにしてくださいよ」
「酔狂だ」

ぴり、と痛む舌すら愛しい。
唇を重ねて、舌を絡めて、歯列をなぞって、また口内を貪って、そうしてようやく満足する(一時の)。

「左近の世界は殿のためにあるんですよ」











09/12