「兼続殿……お久しぶりです」
「久しいな、幸村。あまり、変わりないようだな……いや、痩せたな。それに、老けた」
「兼続殿も、お変わりないようですね」

対峙した幸村は、以前と変わらぬ武士だった。年をとったせいか、少し痩せて見える。だが、なにひとつ衰えていない。
ひとは、彼こそを武士と呼ぶのだろう。

「いや、私は無口になったよ」

義を口にする権利などとうに失くなってしまった。義という言葉を失くした私は、無口になった。
私の唱えていた義とは、悲しいほどに虚像だった。どうして、私に義などという言葉が言えようか。言えるわけあるまい。
こうしてかつての友と対峙しなくてはならない。私の義の成れの果てだ。

「ここで、仕合って終わりとしよう、幸村」

私はあの日、三成が死んだ日、三成の想いと共に心中したのだ。もう、かつての私ではない。






「ギーギー言わないお前も珍しい。まるで別人、個性がないぞ」
「言ってくれる」
「でーも、たしかに希少価値ありますねえ」

「ああ、もうすぐ幸村が来てしまうぞ」
「しっかし、直江殿がこの老けこみようだ。真田殿もずいぶん年食ったんでしょうな」
「俺も、年を」
「いーじゃないですか。いつまでもきれいな顔しててくださいよ」

「ふたりは……十五の年が経ったというのに、変わりないな」
「そ。殿は変わらずきれいな顔で、左近がいないとだめな」
「お前は変わったな」
「おや? 照れてるんですか?」
「俺に義を説いておきながら、自分は義を捨てただと? ばかにしているのか」
「……」
「……と、言いたいところだが。お前は主家存続という義を果たしたのだろう。俺が責める問題ではない」
「三成……」
「これでも殿は、手に汗にぎってね、すごい心配していたんですよ?」
「左近!」

「――三成殿! 島殿! 兼続殿!」

「ああ、本当に来た」
「久しぶりに話すことが出来るのが嬉しい反面、とうとうこっちに来てしまったことの悲しさ、ってとこですかね」
「……」

「お久しぶりです!」











08/29