「あー、やっぱりこんなとこにいて。危ないですよ」
「ふん」


よいしょ、と掛け声をかけながら屋根によじ登った。

三成さんはいじけると屋根の上にのぼる癖がある。今日もまた然り。
ついさっき、本当にくだらないことで言い合いになって(と言っても、三成さんが一方的にわめいていただけだが)、とうとう部屋を飛び出していった。

ケンカの理由は、くだらないったらくだらない。
テレビのチャンネルだ。

俺は6がよかったのに殿は8だ8だとダダをこねる。俺は6チャンのニュースがよかった。殿は8チャンのニュースじゃなくちゃイヤだ。
次第にその言い争いは大人気なくなっていった。

「6チャンのアナはカミカミで不愉快だ」「8チャンのニュースは見づらい。6チャンの特集が楽しみなんだ」

最終的に三成さんは、バン、とテーブルを叩いてリビングを出て、屋根によじ登ったわけだ。
そして、結局、6チャンのニュースも8チャンのニュースも見れなかったっていうオチ。笑えないね。


「ほら、落ちたらシャレにならないんですよ」
「……」


ダメだ。完全にヘソを曲げている。こうなった三成さんはタチが悪い。あらゆる手を尽くしてなだめすかしても、なかなか機嫌が治らない。


「はやくしないと、8チャンのニュース終わっちゃいますよ」
「知らぬ。ひとりで6チャンでも見ていろ」
「ほーらそうやっていじけちゃって」


そう言ってはみたが効果は無し。
屋根にこびりついた鳥のフンを削りだす始末だ。
屋根に上るわ気位は高いわ気まぐれだわ、まるで猫だ。


「あーあ。今日の夕飯は左近ひとりですかい」
「……」


がりがり


「せっかく今日は美味しい、旬のサンマが手に入ったっていうのに」
「……」


がり


ぴたりと手が止まったのを見て、しめた、と思った。


「サンマの味噌煮、左近が全部食べるのも大変だ。直江さんや真田さんにでもおすそ分けしようかなあ」


完全に動きが止まっている。ついでに、左足が少し浮いている。これは三成さん独特の葛藤のポーズだ。
いま、素直にサンマ食べたいと言おうか言うまいか、激しい戦が起きているようだ。


「味噌煮もいいが、やっぱ塩焼きかな。ついでに、三成さんが好きな酒、新潟の久保田が直江さんから送られてきてるんだよなあ。あ、その礼にサンマ送ろうか」


マイナーというかなんというか、微妙な酒が好きなひとだ。直江さんからもらう久保田がともかく好きらしい(俺は嫌いじゃないが、やっぱり山形のくどき上手が好きだな)。
まだ三成さんは葛藤しているのか、と視線をやった。驚いた。


「わー! ちょ、よだれ!」


見てわかるほどのよだれの海ができていた。この短時間でどうやって、犬じゃないんだから垂れ流さないで、そんなに食べたいなら素直になって、と言いたいことはたくさんある。
が。


「風呂!」


ぴくりとも動かない三成さんを抱えて、俺はベランダに降りた。












08/22