濃霧。
兼続、幸村、勝ってくれ。
そう願いをこめながら、深い霧の向こうを睨んだ。
俺が勝つには違いない。地の利も、俺のほうが勝っている。義も、俺にある。
だが、この、支えきれなくなりそうなほどの不愉快な不安はいったいなんだというのだ。地の利は俺にある。
左近が言ったとおり、味方が我らの下知に従い攻めれば、たぬきは潰えるだろう。
人の和。
左近が指摘したこれだ。確かに、俺には人の和はないかもしれぬ。俺は嫌われ者であり、多くの人間に恨まれていることは知っている。
だが、西軍の人の和は俺ではなく、豊家へのものだ。
それなのに、この、言い知れぬ不快感はなんだ。
冷や汗が吹きだしてくる。
天の時、人の和。
「その天下餅、左近がついて殿に差し上げることにしましょう」
そう言って、去っていく左近の袖を掴めるほどの冷静さが、欲しかった。
08/22