「まるで、ばかげている!」

鍔のない短剣が入ったナップサックを引きずり、状況も鑑みずにわめいた(今、大声を出すということは死活問題だ)。
ろくに舗装されていないけもの道に座りこんで、頭を抱える。
政府のゲームにハメられた。
クラスメイト同士の殺しあい。聞いたことはある。
プログラム。

「ばかばかしい! こんなことをしてどうなるという!」

どうにもならぬ。
左近は知っていたはずだ。担任は、知らされているはずだ。父上も母上も。
このゲームを、許可したのか?(いや、反対したら殺される。もしや……)
誰にも会いたくない。
こんな、安穏とした時代に、殺しあうばかがいるものか。
ましてや、兼続や幸村もいるというのに。
そうしてうずくまり続けて、随分時間が経った。
放送が始まった。

『第一回の放送だ』

左近の声がした。

『お前ら血気盛んだなア。19番真田幸村、21番伊達政宗、32番本多稲姫、30番福島正則。アウトは以上。ま、まだまだ時間はあるんだ。頑張ってくださいね、っと』

幸村!
お人よしで、普段はぼやっとしているのに、あんなにスポーツ万能だった幸村がまっさきに……。

このゲームにのったヤツがいる!

幸村! 幸村! 幸村!
実感がわかない。本当に死んでしまったというのか?
なぜ! 誰が! なんのために!
幸村は本当に、この世にいないというのか?
弁当を忘れたと言って、購買でも買いそこねたと泣きそうだった幸村が?
俺の弁当をやったら、犬のように喜んだ幸村が?
授業中に寝言を言って、あとで真っ赤になっていた幸村が?
サッカーの授業で、ボールがコートを破ってしまうほどのシュートを決めた幸村が?

このゲームで、死んだ?

もうシュートが決まって喜ぶ幸村には会えない?
俺が幸村に、数学の勉強を教えることはない?
朝、偶然校門で会うことは、絶対にない?

日常とは、これほどに儚い!

不意にがさり、と草木が鳴った。

「三成?」
「……兼続?」

こいつに限って、ゲームに乗ることはない。
俺は完全に安心した。

「かね、つぐ! ゆ、きむらが……」
「なんだ三成、武器はどうした」
「武器……?」

真意をはかりかねた。
身を守るために武器を持てと言っているのか、それとも、俺の武器を品定めしているのか。
なぜなら、兼続の手にはしっかりとナタが握られていたからだ。
こんなことで疑いかける俺は、なんと小さい男なのだろう。

「まあないのならちょうどいい。そーれっ」
「!」

まるで暢気な掛け声だった。
目をつむって、ただ来るべき痛みを待った。
しかし、シャン、という奇妙な音と、ほのかな頭の痛みだけがやってきた。

「三成ゲームオーバー」

兼続の楽しそうな声が聞こえる。
死んでない……?

「?」
「どうした三成」
「死んでない?」

そのとき、また草を踏む音がした。
もしかしたら兼続は、友人である俺を殺せなかったのではないだろうか。だとしたら、次に現れる人間は、そういった、良心的な、人間的な部分は残っているのだろうか。

「あ、三成さん、兼続さん!」
「お、幸村か」
「幸村だと! 生きていたのか!」

現れたのはたしかに幸村だった。
幽霊でもなければ、本当に、生身の幸村。いつも通りの学生服の幸村だ。
その幸村が、出刃包丁を持っている。

「ははっ、当たり前だろう。死ぬわけがあるまい」
「?」

状況が掴めぬ。
死ぬわけがないだと? それが覆されるゲームではないのか?

「あの、これ、レクリエーションなんですけど……」
「レクだと!」

兼続は持っていたナタの刃先を指で押す。すると、しゃこしゃこ音を立てて刃は納まって飛び出てを繰り返す(おもちゃのナイフみたいだ)。

「なんだ、本当のバトロワかと思ったか?」
「ちっ、違う!」
「でも三成さん、修学旅行の計画立てのホームルームも、バスの中での説明も全部寝ていたような……」
「起きていた!」

もしや担がれているのではないか、とナップサックの中の短剣を取り出した。
よくよく見てみると、型紙かなにかにシワひとつなく、几帳面にアルミホイルがまいてある。偽物だ。

「……不義だと思わないか」
「なにがだ?」
「こんなゲームに賛成したクラスメイトがだ! 実際に死者は出ないだろうが、これは擬似的な殺しあいだ! こんなことをするんだったら、鬼ごっこのほうがマシではないか。こんな精巧な偽物の武器まで用意して……反社会的だ! 不義だ!」

開き直った。

「む……たしかに不義やもしれぬ」
「私、本当はこのゲームじゃなくて大玉転がしがよかったんです……でも多数決で……」
「不義だ! 多数決社会の不義! 少なきが踏みにじられる社会に天誅を!」

偽物の短剣を天高くかざした。すると兼続と幸村も同じようにナタ、出刃包丁をかざす。
刃が交えた。

「直江兼続。天に代わりて不義を討つ!」
「真田幸村。大玉転がし!」
「石田三成。……知遇を得て、嬉しく思う」

これぞ義の誓いだ。



「おいおい、三成さんまで……あいつら、なに盛り上がってんだ……」げそっ












08/16