27:青臭いアルバム

左 + 兼










「ふふ……」

「……」

「……ふふっ、可愛いなあ」

「直江さん」

「なんだ、島先生」

「いい加減、俺の家から出て行ってくれないでしょうか」

「迷い子を追い出すなど不義だな」

「不義でもなんでもいいから。あなたが俺の家に問答無用で存在していることが不義です」

「この不義には理由がある」

「どうぞ述べてください。左近が納得できる理由を」

「三成の家にいったら追い出された」

「納得できません」

「秀吉先生とかは優しく出迎えてくれたのだが、三成がなぜか『お前がこの家に立ち入ることは許さん! 俺のサンクチュアリから出て行け!』と、本気で怒っていてな」

「それで俺の家ですか」

「本当にお隣さんだったんだな」

「ええ」

「ところで、この写真一枚もらっていっても……」

「ダメですっ! 俺の三成さんコレクション、略してミッションをあなたに奪われるわけにはいきません! それは俺のサンクチュアリだ!」

「……だって可愛いんだもん」

「もん、って可愛く言ってもだめです」

「ほら、見てみろ。三成がつかまり立ちが出来た日の写真だぞ」

「それは俺が説明する側です」

「かわいいなあ。三成にもこどもの時があったんだ」

「そりゃ、当然じゃないですか。人の子なんですもの」

「いや、だって、想像できないと思わないか? あの、ズケズケデリカシーの無いことばかり言ってはひとを奈落の底に突き落とし、かと思いければ蜘蛛の糸をたらす三成にだ、こどもの時があったなんて。こどもの時からあんなのだったのか?」

「こどもの時は……どうでしょう。ツンデレだったかな……。んー、あ、ツンデレでした。相当の」

「なにっ、……やはり、ツンデレは一日にして成らず……なのか」

「ええ。おねねさん……、お母さんが『三成は左近のことが大好きなんだねえ』と言ったら三成さん、『おれが左近を好きだと? ばかにしているのか。そんなわけないだろう。むしろおれは左近などこの世で一番大嫌いだ!』って大泣きしたんですよ」

「……何歳の時の話?」

「五歳」

「ボキャブラリが豊富なこどもだったんだな」

「そこは大して問題にすべき箇所ではないんですけどね」

「かなり意地っ張りだったんだな」

「はい。でもその後、こっそりとおねねさんの目を盗んで『おれは近々左近とけっこんする予定だ。お前を嫁にもらってくれるやつなどいるわけないからおれがもらってやる』って言ったんですよ」でれぇっ

「……たしかに、島先生を、嫁にしたがるひとはいないだろうなあ」婿はともかく。

「ツンデレの化身ですよホントに」

「おもしろいやつだ、本当に」

「まあそれはいいとして、今、懐に忍ばせた『スプーン曲げに挑戦する十五歳の三成さん』を返してください」

「チッ」

「あとさっき懐に忍ばせた『体を鍛えようと腕立て伏せをしているときにわき毛を発見して驚いている十七歳の三成さん』を返してください」

「クソッ」

「あ、今一枚戻すと同時に懐に忍ばせた『おねねさんに吊り天井、カッコプロレス技カッコ閉じ、をかけられて泣きそうな八歳の三成さん』を返してください」

「バレタカッ」

「ええ残念ながら。ついでに帽子の中にいれた『海に行って日焼けして風呂に入れず半べそで風呂に入る十八歳の三成さん』も返してください」

「島先生、実は透視能力が……」

「そんなわけないでしょう」

「しかし、島先生」

「なんですか」

「犯罪だと思うぞ、この写真は」渡

「そうですか?」

「十八歳って……今だよな? 今、十八歳だよな、私たちは」

「ええ」

「十八歳の男の子の風呂に入っている写真を持っていることはとっても……、ああ、変態的だ」

「でもそれ、おねねさんにもらったんですよ」

「なんと!」

「『うちの三成ったら可愛いんだよー! 婿入りはまださせないからねっ。はいこれ焼き増し』って」

「親公認なのか! 義と愛の結晶だな!」

「はあ……。だから寝顔ショットとかいっぱいありますよ」

「……見てみたい」

「いいですよー。えっと、これは、おねねさんが三成さんの寝ている隙にぬいぐるみを周りに敷き詰めたときの寝顔です」

「苦しそうだな」

「なんでも夢のなかでタヌキの大群に追いかけられていたらしいです」

「へえ」

「まあそろそろもったいないのであなたには見せません」

「島先生はその写真をなにに使っているんだ」

「別にハレンチなことには使いませんからね。先に言っておきますが」

「使っているのだろう」

「使っていないと言ったそばから全否定ですか」

「あれだろう。例の……おかず? とかそういうのに使うんだろう」

「ちょ、なにいきなり純情ぶっちゃってるんですか。おかずを知らないとは言わせない」

「知らないな。大人の言葉など。知りたくもない」

「あんたの愛染明王は虚像か!」

「愛欲はもっと、健全で……そんな、盗撮写真を見てこそこそ……、したりするものではない!」もじもじ

「そんな照れたって……、直江さんだってもう十八歳でしょう」

「私は盗撮写真は使わない」

「……そろそろ帰ってもらえますかね」

「いやだ私は今日、この写真をもらえるまで粘っている」

「おねねさんに言えばもらえますよ。焼き増したくさん持っているはずですから」

「む、そうか。では失礼した」

「はいさようなら。……勉強しろよー」






07/09
(問1:青臭い理由を邪推しなさい。 答:あなたの心の中に)