24:ふたり
幸村
今日は朝から幻覚が見えます。
不思議なこともあるものです。よくあります。あ、間違えました。しょっちゅうはありませんでした。今日が初めてです。
三成先輩がふたりいます。
兼続先輩もふたりいます。
慶次さんもふたりいます。
島先生だってふたりいます。
クラスメイトの小喬さんとか大喬さんもふたりずついます(四姉妹になったのでしょうか)。
徳川理事長もふたりいます(場所を取りそうです)。
兼続先輩が毛嫌いしているけれど兼続さんのことが実は好きで追い掛け回している山犬先輩もふたりいます。
よく「詮無きこと」と言っては生徒を絶望の奈落へ突き落とすお市先生もふたりいます(効果は二倍か)。
色気満載でお年頃な男子高校生をたくみに誘惑してはハイヒールで踏みにじるという噂の濃姫先生もふたりいます(踏まれたら痛そう)。
茶目ッ気たっぷりで、よく原宿でクレープ屋さんに並んでいるという噂を聞く曹丕先輩もふたりいます(お弁当はきゅうりのみらしいです)。
小喬さんとまことしやかに禁断の愛が囁かれている周喩先生もふたりいます。
三成先輩と実は犬猿の仲の司馬懿先生もふたりいます。
中庭に迷い込んだ捨て風魔も二匹います(また増えちゃったんだ)。
でも私はひとりしかいません。
もしや、これは、全国人類細胞分裂化現象なのでしょうか……。
人類は進化したのです。
ハレンチなことをしなくとも子孫を残すことができるのです。つまり、手間が省けるので少子化も不安ではないので、私たちも安心して年金を当てにできるのです。
ならばなぜ私だけひとりっきりなのでしょう。
私は人類の進化の波に乗り切れないほど愚鈍だったのでしょうか。
悲しいです。
捨て風魔だって進化したのに、私だけ……。
私だけが時代に取り残され、ひとり……。
生殖の時代は終わった、これからは細胞分裂の時代。
孤独です。
細胞分裂をすれば、誰以上にも、もしかしたら、自分以上に私のことをよく知っているひとができるのです。
普通に会話しているところを見ると、どうやら知能などは親と変わらないようです。
彼らにはもう自分しか必要ない……、私という他人よりも、より新密度の高い関係を結んでいる。
それでも、私はひとりきりで、誰にも相手にされず、ただ孤独に生きるよりなくなってしまった。
怖いです。
話しかけることを恐怖に思います。
彼らにはもうベストパートナーがいらっしゃいます。それなのに、進化できなかった私はひとりきりで、むしろ、下等生物だと嫌悪されるかもしれない。
自らの保身のために、私は孤独を選ぶ。
なんだか視界が歪みます。
むしろ体全体が火照っています。
頭が痛みます。
ストレスでしょうか。
なんだか憂鬱な気持ちから抜け出せません。
家に帰りたいです。
でも授業を受けなくてはなりません。
島先生がふたりいます。黒板がふたつあります。ひとが急激に増えたせいでしょうか。
「真田さん? どうしました?」
話しかけられました。声は二重音声ではありません。
でも声を聞いたとたん、頭が殴られたように痛みます。
もしや、彼らの声帯も進化していて(独特な音波を出してみたり)、それすらにも乗り切れなかった私には、毒なのでしょうか。
憂鬱です。
なんだか目が回ります。
「おい、目が据わってるぞ。風邪か? おい、誰かこいつ保健室連れてってやってくれや」
風邪でした。
よかったです。
もうしばらくは皆さんの隣にいていいということです。嬉しいです。
そして私は……ばかです……。
はあ……。
07/01