20:メモの切れ端

兼 + 幸










幸「果たし状…?」

兼「ああ、気にするな。いつものことだ」

幸「えー、でも気になります。ギブミー」

兼「だがなあ」

幸「だってそれ、明らかにルーズリーフの切れ端じゃないですか。それに習字のような達筆な字で果たし状、って書いてあるんですよ。不釣合いですよ」

兼「果たし状のイメージとしては、なんか白い紙が、こう、長くて…、封筒みたいで…、なかに手紙が入ってるような」

幸(説明下手だな)「遺言状みたいな感じですよね」

兼「おっかない例えだがそうだな」

幸「結局その貧相な果たし状は?」

兼「近所のノラ犬からだ」

幸(犬に果たし状もらうなんて…、犬と同レベルでケンカする人なのかな)

兼「言っておくが、俺は犬とは別にケンカしないぞ。あっちが勝手につきまとってくるんだ」

幸(犬に同レベルに見られてるんだ)

兼「その無言の時間が怖いんだが」

幸「たまには黙ることも必要らしいですよ!三成先輩に聞きました」

兼「だからといってな、このタイミングでそれを実行されるとは思ってもみないだろう?」

幸「すみません、私、兼続先輩ではないのでわかりません」

兼「ああそうだ幸村に同意を求めた私が悪かったな。まあ、喋れ」

幸「えっと、お元気ですか?」

兼「元気だ」

幸「いい天気ですね」

兼「ああ、晴天だ」

幸「・・・」

兼「・・・」

幸「私にどうしろっていうんですか!」

兼「思ったんだが幸村は私に対して少々辛辣ではあるまいか」

幸「気のせいですよ!」

兼「いいや辛辣だ。三成には犬のごとくシッポ振ってるのに私には牙を剥いている」

幸「気のせいです」

兼「三成も私に対しては案外言葉がひどい。私ってもしかして、嫌われてる?」

幸「それは…自分の胸に聞いてみてください」

兼「あえて言葉を濁したな」

幸「すみません。嘘をつくことが怖いのです」

兼「つまり、私はみんなに嫌われている?」

幸「胸に聞きましたか?」

兼「もしもし、もしもし。 だめだ、応答がない!私の胸は死んでいる!」

幸「大変大変!それは大変!胸が死んでるって、…心臓?」

兼「いや生きている。ドキがムネムネしている」

幸「土器にムラムラ? いったい何してるんですか」

兼「ええっと。どこから説明しようかな」

幸「で、ノラ犬との果し合いは行くんですか?」

兼「行くわけあるまい」

幸「なんの種類の犬ですか?」

兼「山犬だ」

幸「それって白くて大きくて喋って『お前にサンが救えるか!』って言うやつですか?あれじゃあ勝ち目ないですよね…」

兼「幸村、少しお前の脳内を確認してみたい」

幸「医師免許みたいなもの、持ってますか?」

兼「持っているわけないだろう。一般学生だぞ、私は」

幸「一般かどうかはさておき持っていないのならやめてください。私死ぬじゃないですか」

兼「幸村…最近ローテンションだが、なにかイヤなことでもあったのか?私でよければ相談に乗るぞ。まるで疲れきった島先生を見ているようだ」

幸「別に、ただ、兼続先輩が最近つきまとってくるなあ、と」

兼「幸村。お前、三成の悪いところを学んだな」

幸「そんなことないですよ!わあ!幸村すっごい山犬気になる!」

兼「今さら取り繕ったところでなにが改善されるのだ」

幸「…私と、兼続先輩の、友好関係?」

兼「いいや、一度失った信頼は取り戻せない」

幸「そこをなんとか」

兼「よしわかった」

幸(いいんだ)「兼続先輩、思ったんですけれども、山犬との果たし状を無視してすっぽかすということは不義ではないんですか?」

兼「安心しろ。山犬が私に果たし状を出してきたことがそもそもの不義だ。不義にのっとれば私も不義となる。こうして無視することが義」

幸「義って難しいですね」

兼「幸村、がんばれよ」

幸「はあ」



(山犬は兼続にフォーリンラブに見える)

05/29