16:休日返上

四人










幸「やればできるって言いますけどね、そりゃ誰でもやれば最低水準はこなせます。できない子はやらないからできないんです」

左「いつになく反抗的な開き直り方ですね、真田さん」

幸「だって『やればできる子なんです』って、よく言うじゃないですか。私も言われますけれど、やらないからできないんです。変なプレッシャーやめてください」

左「やったら最低水準はこなせると理解しているのなら、やってくださいよ。目指せ最低水準」

幸「でもどうせ目指すなら最高水準。ハーバードですよね?」

左「夢を見ることは自由ですけれどね」

幸「タダですしね」

左「ええ…。とりあえず、わざわざ休日に学校にきてこんなことしてるんですから、最低水準、すなわち三十点は取ってほしい」

幸「がんばりマンモス!」

左「はい」

幸「ところで」

左「ん?」

幸「国語で休日使って補習って、私、どれだけダメっ子なんでしょう」

左「いえいえ、プリント見てください」

幸「…√81…。あ、数学だ」

左「そうですよ。数学ですよ。問題見ませんでしたか」

幸「数学ってなぜか真っ黒に見えるんですよね」

左「だからってテスト白紙で出しちゃだめでしょう」

幸「白紙じゃないんですよ。真っ黒なんです」

左(…はあ。なんで俺がこんな目に…)

幸「えーと√81を…、どうするんですか?」

左「平方根」

幸「平方根?」

左「整数にするんですよ!あなた二年生になれるんですか?!」

幸「それは詳しく聞きたい話ですね」

左「俺が詳しく聞きたいくらいだよ!」

幸「ぜひ掘り下げて説明ください」

左「なんで俺が!」

幸「平方根について」

左「整数に直すんですよ!」

幸「わ、どういう話になってるんだ?」いじいじ

左「どうか会話を継続させるくらいの集中力を保っていただきたい」

幸「整数に直せばいいんですよね。整数に。消しカスでネリケシ作ってる場合じゃないですね」

左「そうですよ。その通りですよ。わかってるじゃないですか」

幸「私はそろそろネコをかぶるのをやめたほうがいいでしょうか?」

左「ネコかぶってるんですか」

幸「気付くと数学が真っ黒になってますし」

左「どういう因果関係があったのか知りませんがそれがネコかぶりのせいだったらやめたほうがいいと思います」

幸「じゃあネコかぶりやめます」

左「はあ…」(面と向かって言われても…)

幸「にゃーからわん…にゃーからわん…」

左(何を言ってるんだ)

幸「にゃーからわん…にーからわん…2からワン、2からONE。ワンフォーオールオールフォーワン。つまり、答えは1!」

左「9です」

幸「マイガッ!」

左「左近も叫びたいですが」

幸「三成先輩がいらっしゃらないのでだめです」

左「マイガッ!」




兼「やあー、諸君。べんがってるかー?」

三「おぞましい活用法だな」

幸「いえー!べんがってます!」(また私の知らない言葉だ…、とりあえず同調しておこう)

左「べんがるって…」

兼「勉学に励んでいるか?だ」

三「俺は明日のテストのためにべんがった。今、体育館でバドミントン部を追い出し、兼続との永続ラリー、題して『永久(とわ)に…』をしていた」

兼「三成が三ターン目で落としたから終わったがな」

三「見よ、この玉のような汗を!」

左「三ターンでそんなに汗かいたんですか」

三「俺の肌もまだまだつるつるだな。若い証拠だ。玉のように汗をはじく」

幸「すごいです!先輩!」

兼「む、数学か」ぺらっ

幸「あ」

兼「なんだ、これ間違っているぞ。√25は5だ」

幸「意味がわからない」

兼「お前の考え方がな。5かける5で25になるだろう」

幸「兼続先輩。島先生を解雇してください」

左「ちょ、いやいやいやいや、いやいやいやいや…」

三「幸村の願いならいたしかたあるまい」

左「いやいやいや…左近になんの罪があるのですか」

兼「不義、と言ったところか」

左「カッコつけやがって」

幸「島先生の数学はとってもわかりづらいんです」

三「左近、教師失格。人間失格」

兼「太宰っ」

左「国語教師の俺にそこまで言いますか」

三「あ」

左「あ」

三「そうだ。幸村、左近は国語教師だぞ。数学を聞く相手が間違っている」

兼「あ」

幸「あ」

左「あ」

三「お前ら…、お門違いもいいところだ!」


左(なんで俺が…)




05/22