14:伝える言葉は黒板に
五人
『らみちのちかなにかち』
三「さて、そろそろ帰るか」
兼「そうだな」
幸「はい! …あれ?」
慶「んー?なんだありゃ」
三「なんだ?」
幸「黒板になにか、変な言葉が書いてあります」
兼三「ら、み、ち、の、ち、か、な、に、か、ち?」
慶「これは…、暗号だな!」
三「いつの間にこんなものが…」
兼「SHRのとき、三時三十五分には無かった。現在、四時三十分までの間に何者かがこの暗号を残したということが考えられる」
幸「うわあ!一体どういう意味がこめられているんでしょう!」
三「らみちのかちなにかち。だ」
幸「さっぱりです」
慶「漢字にしてみっか? らみちの、勝ち、何勝ち」カツカツ
兼「慶次は相変わらず字が上手いな」
慶「ははっ!ありがとよ」
幸「ラミチさんの勝ち、何、勝ちって。勝ちって何よ。みたいな?」
三「ラミチさんの勝利が気に入らないのか」
兼「ラミチは人名か」
慶「あ、間違えた。らみちのちか、何勝ち、だった」
三「は?」
慶「じゃあ、こういうのは? らみちの血か、なにか、血」カツカツ
幸「さっ…殺人?!」
兼「らみちの血か、それともなにか別の血か」
三「ふむ…」
慶「らみ、血の、血、か、なに、か、血」カツカツ
兼「名前が縮まった。ラミさんになった」
幸「ラミさん…どうか安らかに…」
三「血の血…どういうことだ?」
兼「血は、血を流す?」
三「血を血で洗うとか」
幸「わ、それ意味ないですね」
慶「まあ表現としてあるわな。そういうの」
三「らみ、血の血、な、に、勝ち」カツカツ
慶「んー?」
三「ラミは血を流し勝利を得たが、血を流して得た勝利はまた血を流すことで終わる」
兼「武力行使のことか?」
幸「ええと、ラミさんて方は日本人では無さそうですよね…。なら、並べ替えとかでは?」
三「ち、か、に、み、ち、に、ち、か、な、ら。『の』は省略してみた」カツカツ
幸「地下に道に地下なら?」(なぜ『の』を?)
兼「地下に道があるのかっ!これは、もしや、誰かの埋蔵金の暗号…?」
三「埋蔵金!」
慶「ならこうしてみようか。 なかにちかのみち、らち」カツカツ
幸「中に地下の道、拉致?」
三「この『拉致』にこそ埋蔵金のありかがあるのか?」
兼「拉致…、拉致問題?」
幸「…もしかして、誰かが誘拐を…?助けを求めるためにこの暗号を!」
三「違うだろう。こんな意味のわからん言葉を残すなど愚の骨頂だ」
慶「『拉致』じゃなくて、『ら』と『ち』として別の言葉にするか?」
兼「んー…ら、ら、ら、…ラーガ?」
三「らーが?」
幸「あ!音楽でやりました!インドの古典音楽の旋法ですよね」
慶「幸村は芸術選択、音楽なのか」
幸「はい!ようやく役に立てました」
三「お前はいるだけで役に立つ」
幸「え?」
兼(癒されるからなあ)
三「音楽室に…、なにかあるのか?」
慶「『ち』の解読のしかただな」
三「音楽室関連のチ…、作曲家の名前か?…チェルニー?」
幸「?」
兼「ああ、教本にもなっているあれか。しかしあれはツェルニーだろう」
慶「それはどっちでもいいんでねえの?」
幸「私だけがわからない…」
三「気にするな。知らなくてもいい。兼続が昔ピアノを習っていてな、教本を見せてもらったのだが…、あれは人間ならば理解できないだろう」
兼「言外に私を人外と言ったな」
幸「へえ…。チ…チ…チ…ああああ!!!」
慶「うおっ」
幸「チャイコフスキー!!」
三「くるみ割り人形の人か」
兼「白鳥の湖、眠れる森の美女も彼の作曲だ」
幸「たしか、音楽室にチャイコフスキーの肖像画がありました!」
慶「すげえぞ幸村!チャイコフスキーに埋蔵金か!」
三「見てくる!」走
兼「あ…。行ってしまった」
幸「私も行ってきます!」
慶「行ってこーい」
兼「慶次は行かないのか?」
慶「ああ、俺は埋蔵金には興味がないからな。第一、チャイコフスキーの肖像画は壁に飾られてるもんだろう」
兼「ああ。音楽室は三階だ。『中に地下の道、らち』肖像画の中に、三階のあそこから地下へ続く道があるはずがない。それに私は…、並べ替えではなくもっと別の解読が出来るのではないかと思っている」
慶「へえ?じゃあ、ローマ字にするか? ramichinochikananikachi」カツカツ
兼「レイミッチ、ノウチ、ケイネイチケイチ」
慶「英語読みか?」
兼「発音記号がないからな。とりあえず程度に」
慶「んー…、chiをtiに変換しても、英語にはならなそうだな」
兼「どこかで区切るか?」
慶「らみちの、で区切ると。…あー。tionになれば英語っぽいんだがなあ。mじゃあなあ」
兼「んー…、ドン詰まりだな」
三「ただいま!」
幸「マンモス!」
兼「お帰り。無かっただろう、地下へ続く道は」
幸「はい!」
慶「イヤに元気だねえ。どうしたんだい?」
三「道は無かったが大きな収穫を得た! 出でよ、左近!」
左「…俺はテストの製作途中だったんですけれどね…」
兼「おお、島先生か!先生もこの暗号の謎を?」
左「いや、普通にパソコンで問題作ってたら、いきなり三成さんが…」
三「わかったのだよ、幸村のおかげで!」
幸「ハイ!」
左「もうなにがなんだか…」
慶「わかったのかい?で、どういう意味なんだ?」
三「それは今からだ。左近、パソコンを」
左「はいはい」
兼「?」
三「結局チャイコフスキーの肖像画の後ろに道などなくて、さらに音楽教師にとがめられ意気消沈して帰路についた俺たちは、左近のいる国語科を覗いたのだ」
幸「そこで島先生の独り言を聞いて、私はひらめきました」
左「『あーあー、なんでひらがな入力になってるんだよ』」
幸「もしかして、あの意味不明のひらがなの羅列は、パソコンのキーボードではないか?と!」
慶「お!いい線いってるねえ」
兼「なるほど。パソコンか…、あまりやらないから論外だった」
三「さあ、左近、あの、らみちのかちなにかち、を」
左「とりあえず、あれをひらがな入力として入力されたものとして、ローマ字で打ち出せばいいんですね」
幸「よくわからないけれどそれでお願いします」
左「えーと…、ラ、O」
三「ラオウ」
慶「お、懐かしい」
左「ミ、N、チ、A、ノ、K、チ、A、カ、T、ナ、U、ニ、I、カ、T、チ、A」
三「そのローマ字を並べ、日本語に読むのだ」
兼「ONAKATUITA…。お腹ついた?」
慶「腹は取れてたのか?」
三「しかしこの線は間違っていない。初めて日本語らしい日本語になった」
幸「やったです!」
左「おなかついたって…、謎が深まりましたよ」
兼「これは…、この暗号を残したもののタイプミスではないか?」
慶「ついたってのはなあ…。Tの周辺の単語は?」
左「えーと、5、6、Y、H、G、Rくらいですかね」
兼「お腹ゆいた、お腹ふいた、お腹ぐいた、お腹るいた」
慶「お腹から離れるか?」
幸「お、仲ついた」
三「あ」
左「?」
三「お腹すいた…」
兼「それだー!!!」
左「えー…、でもSはもっと遠いところに…」
三「タイプミスだろう」
左「えー…」
慶「じゃあ、俺らが食いたいもんを、同じように書いといてやるか!」
三「きゅうり」
兼「クレープ」
幸「お米」
慶「饅頭」
左「…え、と。ニンジン」
『RES:のんななすに のなすいほせな らのらもい もちみみつんなな みにみみつにみみ PS:TからSもちかにきちいかいもちとなんら』
三「かんぺきだ。きゅうり、くれーぷ、お米、饅頭、ニンジン。PS、TとS間違えてますよ」
幸「それにしても誰がこんなの書いたんでしょう?」
*
丕「……あ、間違えたか…」
(愉快犯)
05/18