やや肌寒い晩秋の風の中を、白雪の馬に跨り駆け抜ける。
 いとも、見え透いた挑発に煽られる敵勢の様がなんとも痛快で、「まだまだ、青いわ」と愉快気に揶揄する父の声を、共に轡を並べながら真田幸村はそれを聞いていた。
 重たい衝撃を放って飛んでくる鉛の玉を幾度も生死を分かち合った愛馬は、まるで神経に記憶されているかのような俊敏さでかいくぐり、主人が手にする十文字槍が赤黒い血飛沫を上げて、にび色の空に脂が照り返るたびに、甲高く戦慄いた。
 少し進んでは後退し、引っ掻き回しては後退する、真田親子の戦法に翻弄され始めた徳川秀忠率いる別働隊はすっかり術中にはまり、抜け出せなくなるところまで駒を進めてきていているのに、まだ気付かず轟音を響かせている。

「天下もささくれたモンじゃのう」
「父上、それを我々の義の力で塗り替えていくのです」

 生臭い戦場に場違いだと倒錯するほどの幼くも、如月の冷たい風のような凛とした笑みを幸村は浮かべていた。
 変わったなと、父…昌幸は思った。無論、いい意味でだ。
 まずは顔つきが変わった。目の奥に秘める焔の闘志は、何より戦国を生き抜いた己にとって酷く好ましく映る。そして、何よりこの青年の纏う雰囲気だ。生気に溢れ暁よりも燦然と輝いて美しいと父親ですら舌を巻くときすらあるのだ。
 それは紛れも無く、あの平壊者の影響なのだと昌幸は知っている。

(あの狐風情もやりおるわ……)まばらに生えた顎鬚を指先でなぞった。

「あちらは、晴れているでしょうか」

  幸村がそっと吐息に乗せるように囁き、空を見上げた。

「天は、西軍に有り!!」

 昌幸は馬の横腹を蹴り上げ、鋭く叱咤させた。脇を通り抜けていった父の顔は、朧な祖父の面影よりも、今は亡き甲斐の虎の片鱗を浮かばせるような気がした。
 幸村はそれを追いかける。
 なぎ倒した死体で出来たぬかるんだ道を馬の屈強なヒズメで踏み荒らし、もはや、判別が出来なくなっている。そこにあるのは、ただの肉の塊だ。
 瞼の裏に描いた御旗は、どこまでも澄んだ青空に翻っていた。

―――天は、西軍に有にて候

 雲の切れ間から差し込んだ光が、瞼を突き刺し網膜を焼く。
 信州上田にて鬨の声があがる頃、関ヶ原は―――終幕した。





空色
のマーチ
(alas.
I want to cut it off by this hand so that fate breaks off the neck of the
camellia.)












(0905)

熱烈片恋をしておりました「鬼雨」の椎名しいな様に拙いながらにも献上させて頂きました両思い成就記念文で御座います。リクが「関ヶ原関係」ということで喜び勇んでいたのですが、なんか不発ですみません……orzしかも、短文……切腹してきます!!
あんな、素敵な小説を頂いたのに…クネッ、ビヨヨーン、ニコッ、スッスッハー。受け取ってくだされば幸いです。クネッ、ビヨヨーン、ニコッ、スッスッハー。

(便乗してみました。「春と修羅*」小鹿秋浩)


shina
い た だ き ま し た 。
私が送らせていただいたあの文章にこの小説……、私のスキット十個束ねてもまだ足元に及びません。
羨ましくてもこれは私がいただいたものなのであげないよ!
ああ、なんだか、画面が霞んで……、あれ、どうして顔が濡れているんだろう……。
本当にありがとうございました……!
これからもどうぞお付き合いくださったら嬉しいです。
英文訳は私の心に「ナイナイ!」しておきます(しまうこと)。いや、こういうものは自分で調べたほうがワクテカするタチなので……!