「お前がそんな顔をしとっちゃ、良くなるもんも良くならんだろうが!」
「ああ……、なんか気持ち悪いものだ」


正則と清正が俺のほうをチラチラと見ながら言う。

朝鮮よりの撤兵も無事に終了し、諸大名の動きが俄かに顕著になってきた。そのことに気付いた二人は、気まずそうな顔をして俺の屋敷へやってきた。それから、三人で秀吉様の墓参りに行くことになった。
二人と俺の間にある妙な距離が物悲しい。だが、墓前で静かに冥福を祈るだけだ。


「秀吉様の墓前だ。……笑えないさ」
「いや、お前が笑うほうが気持ち悪い……」


驚いた清正は、正則と顔を見合わせる。
本当に俺と石田三成は全然違う人間なんだな。清正と正則の反応だけではなく、いろんな人間の反応もそうだと物語っていた。清正は未だに、俺のことを変なものを見るような目で見てくる。正則は、少し慣れたのだと思う。

でも、なぜ左近はなにも言わないのだろうか?
石田三成が人肌を嫌いと知っているはずだ。それなのに、添い寝などと言った。表情が硬いと言われる石田三成なのに、俺のコロコロと変わるらしい表情にもなにも言わない。いろいろな言葉を使うらしい石田三成なのに、語彙の乏しい俺に疑念を抱いた様子がない。


「秀吉様……、豊臣の天下は、私三成と、清正、正則で協力して守ります。……どうか、ご安心ください」
「……協力じゃと! わしと、三成が! 正気の沙汰か!」


清正は俺の言葉に身を跳ねさせて反応した。信じられない、という色が全面に押し出されている。やはり、正則と同じように俺と協力など考えたくもないことなのか(こんなときに手段を選んでいられるのか?)。


「そうだ。家康が、大名同士の婚姻を結んでいることは、知っているだろう?」
「ああ、俺のとこにもそんな話があった」
「なに! それはご法度じゃろうが!」
「……それを知っていて、家康はしているのだ。前田殿も床に臥しているという……。今、俺たちが分裂してしまったら、家康の思う壺だと思わないか? 俺たちの仲が悪いということも、利用するに違いない。だからこそ、協力しなくてはならない。秀吉様の、大切な天下を守るために」
「嫌だ。わしは三成となど、死んでも協力なぞせん」
「清正……」


腕を組んで清正はそっぽを向いてしまう。正則はなにも言わない。あの日に感じた手ごたえは、偶像だったのだろうか。


「清正、俺らには手段を選ぶ余裕がないらしいぞ。内府殿は並ぶ者がおらんほどの実力者じゃ。三成を排斥するなら、豊臣の天下を確かなものにしてからでもいいだろう。それに、三成は俺らにあれこれ指図はしないと言っていた」
「……関係ないな」
「考えてもみてくれ。豊臣恩顧の将である清正が、万一にも家康の味方についてしまうようなことがあったら、どうなる?」
「断じてそんなことはない」
「なら、お前はどうするのだ! 家康の凶行が目に余れば、俺たちはきっと、兵を挙げることになる。そのとき、俺が嫌いだと言ってお前はこちらにつかないというのか?……そんなことをしたら、お前は多くの人に笑われてしまうじゃないか!」
「誰も豊臣方につかんとは言っておらん。わしはお前が嫌いなだけじゃ」
「なら……、どうしたらいいのだ」


情けない。

秀吉様の墓前で、こんなことを言い合っているなんて、なんと情けないことだ。俺にできる唯一のことが、シナリオ完遂だというのに。それすらも果たせず、また同じことを繰り返すというのだろうか?


『……で、その役目を終えた場合、ディオラマのシナリオは無事に成功する。そのとき、模倣は今後必要になるか?』


うるさい、うるさい!
こんな時に、そのような不安が頭をもたげるなど!
俺は、俺は、シナリオを成功させることしか、できないのだ! そうしなければ模倣が消えるのか残るかすらわからないだろう!


「三成が、変じゃぞ、市松」
「だから先に言っておいただろうが。そんなことも忘れたのか? 俺だって夢を見ていると思った。あの小憎らしい三成がしおらしいんだから。しかし三成がそれほど心を病むまで豊臣のことを思っている、と考えてもいいと思うんだがな」
「じゃがのう……、こやつは朝鮮で……」
「意地を張ったってしょうがねえだろ? 虎之助だっていつまでもガキじゃねんだから、一度くらい三成を信じてみようや。で、こいつが信じるに足らない人間だったら斬ればいいだけだ」
「そう簡単にいくか」
「俺らが信じるに足らないと判断したということは、こいつは奸臣だったということだ。別に悪くはない。内府殿のように実力者でもないから、簡単だ」
「お、お前ら、俺の目の前でそんな物騒なことをだな……」
「……くそ、信じるのは一度だけじゃからな」
「清正、正則……、ありがとう……」


模倣がどうなるかは、わからない。シナリオが成功しなければわからない。そうだ、そうだよ。
だから、この清正と正則との会話は、俺が本当のことを知るための大きな一歩なのだと思う。


『ひとりで多くのことをこなせる石田三成を少しでも羨ましく思った俺がばかだった。仕事は出来ても人付き合いができないなんて、アホか! アホだろう!』


多分、一度目の俺。

違う、違うさ。
石田三成は人付き合いができないわけじゃないんだ。清正や正則と、本当に憎しみあっているのなら、一度だって信じてもらえるわけがない。他の人に比べれば下手なのかもしれないけれど、最低限の土台はちゃんと作っておいてくれたんだ。




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09/16