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「……で、話とはなんじゃ。くだらんことだったらぶっとばすぞ」
「え……、と」


そういえば、面と向かってなにを話せばいいのだろう。しまった、急ぎすぎてちゃんと整理をしていなかった。
とりあえず、和平について納得してもらわないとならないな。


「まず、和平交渉のことだが。これは秀吉様より言い付かっていることだ。納得してほしい」
「ふん、どうせお前が秀吉様をだましてそんなことを言わせたに決まっとる」
「そんなことはない。激戦に疲弊している兵たちや、清正たちのことを深く寵愛しているからこそ、これ以上の不毛な戦はしないという判断だ」
「わしらのことを真に思っておるのならば、わしらを信じ、明を下すのを心待ちにしておるに違いない」


……怒ってはいけないぞ。
たしかに俺が強引に願い出て決まったようなものだが、最終的に秀吉様はこれに納得……してくれたのだから。そこのところをわかってもらわないと。


「どうしたら俺の言うことを信じるのだ?」
「なにを言っても信じないな」
「本当のことなのだ。秀吉様も、おねね様もお前の顔を見たがっている」
「……」


おねね様効果か。少し清正が考えるそぶりを見せる。
先ほどからちらりとも俺を見なかった清正が、一瞬だけ俺を見る。顔も見たくないらしく、すぐに逸らされてしまったが。


「戻って元気な姿を見せるのも、臣の務めのひとつではないか? それに、ここでお前が独断専行で戦を続けてしまうと、俺はそれを秀吉様にありのまま伝えねばならぬ。……以前のように、お叱りを受けてしまうぞ」
「あれはわしが良かれと思ってしたことを、お前がわざと悪くして言った話だ!」


ドン、と拳を床に叩きつけ、清正は俺を見て怒鳴りつける。その迫力に思わず驚いてしまい、頭の中が真っ白になった(清正が、俺を怒っている)。


「そ、そんなことはない。ただ、ありのままに伝えただけだ」
「やはり貴様の言うことなど信じるに値せんわ! さっさと出てけ!」
「……わかった」
「は」
「……また、後で来る。俺は他の者たちにこのことを伝えねばならん……。邪魔をした」


憎々しげに俺を見る清正に耐えるのが限界に達してきたので、俺は大人しく引き下がることにした。外に出て、低くなってゆく日を眺めているうちに、大きなため息が知らずに溢れてくる。
加藤清正はこの世界でも同じことをしていたし、石田三成もやはり秀吉様にそのことを伝えている。それも手伝っているのか、この険悪さは手がつけられない。時が解決するという次元の話ではない……。これでは、本当に勢いで東軍についてしまってもおかしくなさそうではないか。

くそ、少し舐めていたな。
時間がない……。それなのに清正はちっとも聞く耳を持たない。くそ、上手くゆかない。
鼻の頭に溜まった汗をぬぐい、行長のいる陣屋を探す。清正の陣屋より少し離れたところに、見慣れた家紋を掲げた陣屋を発見する。見張りの者に声をかけ、行長の返事を待つ。その間も考えは後ろを向いてばかりだ。今は関係のない、考えないようにしていたことまで思い出し、もはや手をつけられない(……行長とも仲が悪かったら、どうしよう)。


「三成、久しいというのに元気がないな」


陣幕を捲くって顔を見せた行長は、友好的な笑みを浮かべ俺を迎え入れた。そのやわらかい笑みを見て俺は一気に安心した。


「ああ……、ちょっと、清正とな」
「あーあー、ありゃしょうもないさ。私も幾度となくぶつかりあっている。ところで、和平の話は本当のことなんだな。こうして三成がここにいるということは」
「そうだ。だが清正は信じてくれない」


陣屋の中へ招かれながら、俺はぼそぼそと喋る。信頼されていない自分があまりに情けなく思っているのか、それともただ単に気持ちが落ち込んでいるからか。そのどちらもあるような気がする。
行長はあっけらかんとして次々に話し始めた。


「私も以前に、和平のことで幾度となく衝突した。あれじゃあ、すぐには納得しないだろう」
「……困る」
「そう、困っている。あれは梃子でも動かないとでも言うような姿勢だ。説得するには骨が折れるだろうな」


俺が、何を言っても無駄なのかもしれない。清正の態度を目にした途端、砂で作った山のように俺は簡単に吹き飛んでしまった。







『ふうん? 四回も同じことを繰り返して、人間は飽きないのか? 俺が、もし記憶を持っていたら飽きてしまいそうだよ』


椿を見ていると、妙においしそうに見えてくるから不思議だ。ま、昔食べてみて懲りたからもうしないけれど。


『人間には、飽きてる暇なんてないんだろうよ。時間がないらしいからな』
『……慶次も飽きてきたか?』
『……いや、お前見てると、なんか楽しいわ』
『そうか? ありがとう』




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09/16