考えれば考えるほど混乱する。自分の頭で処理できることはどうにか言葉にしているが、許容量を超えている問題についてはさっぱりだめだ。少し考えて、言葉にしてみて、納得できずに何度も考え直している。
誰か、俺のすべきこと考えるべきことを簡潔に一言で表してくれれば、助かるのだが(それを自分で出来ないなんて、情けない)。
『シナリオ遂行』『しかし今の俺では難しい』『なにをすべきか』……、おおまかなところこんなものだろう。
昨日、慶次と別れてからというもののこの三つについて考え続けている。俺は真実を見たい。だから『シナリオ遂行』を果たしたいと思っていた。だが、『今の俺では難しい』。俺はあまりに可愛げがない。ならば『なにをすべきか』。やはり『シナリオ遂行』だろうか。これはいい悪循環だ。
だが慶次はこうも言っていた。『今なにをすべきか見極めるべき』と。『シナリオ遂行』意外に俺にやるべきことがあるというのか?
……慶次はなにを言おうとしていたのだろう。
「どうしたんだい、三成ってば。難しい顔しちゃってさあ」
「おねね様っ」
意味もなく城内を歩き回っていたら、おねね様が現れた。
この世界のおねね様は、西ノ丸にいないのか? 驚いたぞ。それに、おねね様の格好、まるで隠密行動でもしそうな格好ではないか(少し派手だが)。
「もうっ、いっつもこうやって眉間にしわなんか寄せちゃってるから暗いのよ」
「わっ」
そう言うなりおねね様は俺の眉間を指先でぐりぐりとほぐし、にんまりと笑う。俺の知っているおねね様と全然違う。
そういえばこの世界に来てから、全然人に触れていない。最初に左近にちょっと触れたりしたが、あれ以来、ろくに話すらしていない(ケンカしたみたいな雰囲気になってしまった)。
「んふふ、驚いてる顔のがまだマシだよ」
「はあ……」
「……熱でもあるのかい?」
どう対応したらいいものか、わからない。
不思議そうに俺の額に手を当て、自分の額とを比べるおねね様。……どうして、額なのだろう。ああ、そうだ、耳や尾がないからか。初めてのはずなのにどういうわけかこの感覚を知っている。
「んー、ちょっと熱いかなあ? あんまり無理しちゃだめだよ」
「あ……、ありがとうございます」
「まあ! 三成がありがとうだって! いい子になったわね」
頭をグシャグシャとなで回し、おねね様は機嫌よさそうにどこかへ走り去ってしまった。
……俺は、まだ、人に愛される要素がある!
なにも考えてはいけないのだ! 考えずに、ただ、目の前のことに集中すればいいのか!
今まで考えてきたことと相反する結論だが、俺はただ、素直にしていればいいのだ。小賢しいことなど考えずに!
こんなことにも気付かなかったのか、俺は。これを実行することができれば、まだ間にあ――――
*
『なにそれ? 俺があほだからって、俺をだまそうっていうコンタンか!』
慶次の手元で踊る椿を眺めながら、俺は頬を膨らませる。慶次は大きく笑いながら俺の頭をなで、それに怒った俺はさらに頬を膨らませた。
『騙すんだったらもっとマシな話をするさ』
『だって、この世界の他に別の世界があるって話だろう?……ええっと、その「でぃおらま」という世界があって、この世界はその「でぃおらま」のモホウで、「でぃおらま」はもっと大きな世界のモホウで、「何度もやり直してる」……、はあ? なにを言ってるのかさっぱりわからんぞ』
つまり、世界は三つある。そのうちの二つはモホウ? その上、やり直し? なんのこっちゃ。
意味がわからん。フィーリングで感じ取ればいいのか?(日本語よりも、南蛮の言葉のほうが好きだ)
『わからない、か。まあ、わからないだろうなあ。見たことがねんだもんよ』
『なら、慶次はどうして見たこともない世界の話をするのだ?』
『見たことがあるから話してんだよ。しかも、お前が関係するからさ』
『俺が?』
俺がそんな意味のわからん、小難しい話に巻き込まれるだなんて! 今から勉強しても遅くないだろうか? ああ、帰って左近にいろいろ教えてもらおう……、いや待て待て。まだ慶次が俺に嘘ついている可能性があるではないか!(左近で思い出した。俺はだまされやすいとな!)
ゆるやかに回る椿を目で追っていたら、慶次はそれを持ち上げてみたり、地面すれすれまで下げてみたりする。それを必死に目で追いかけていたら、慶次は笑った。
『ああ、そうさ。お前は関係する。ディオラマの世界で未来を変えるためにな』
『未来を、変える?』
本当のことならば、なんておもしろそうな話!
enough
09/16