ある日、おじさんはいつものように畑の様子を見に行きました。その後ろを青年はひょこひょことついていきます。おじさんの足音に自分の足音を重ね、楽しんでいるようです。
 畑に到着したおじさんと青年は、畑からつきでた白いなにかを見てあんぐりと口をあけました。先は丸く、とても抱えることはできそうにないほど大きな白い棒。お二人は互いに推理を披露し合いながらうろうろとその周りを歩き回ります。

「UFOが落ちてきたのだ」
「どぉーこに出入り口があるんですか? こりゃ、左近が念入りに育てた大根が成長したに違いねえですよ」
「大根は葉の方が上だろう。葉なんてないではないか」
「鳥さんが食べちゃったんですよ」
「……」

 青年は白い棒にかぶりつきます。しかし、食いちぎることはできませんでした。

「大根ではない……、布だぞ、これは」
「布ォ? なんでこんなところに」
「やはりUFOだ」
「布がァ? どっかで棒投げの試合でもあったんじゃないですかあ?」
「非ィ現実的だぞ」

 おじさんと青年はあれこれ議論しますが、水掛け論に終始してしまいます。
 そこで、どちらからともなくひとつの提案が出されました。それは、この謎と布につつまれた巨大な白い棒を引っこ抜いてみよう、ということでした。とても大きな棒ですが、二人で力を合わせれば大丈夫!という精神論の元、お二人は棒を引っ張り始めます。

「うーんとこしょっ、どーっこいしょっ」

 おじさんが棒をつかみ、青年がおじさんの腰を引っ張ります。しかし棒はびくともしません。一刻ほどその努力を続けたお二人ですが、とうとう疲れきってしまい、小休憩に入ることにしました。
 その間もあれこれと棒の正体を予想しあいます。

「巨大な繭かもしれん」
「いやですよこんな大きな蛾。それよりもこれ、ぬいぐるみかもしれませんよ」
「ぬいぐるみ?」
「昨晩のうちに不法投棄しようとして、埋める努力はしたが諦めた、とか」
「はあ? お前ばかか?……しかし今までの様子だと二人ではらちがあかんな。助っ人を呼んでくる」

 青年はすたこらと走り、自分の住んでいる家の隣の家へ向かいました。青年を出迎えたのは、青年よりも少し若い、外ハネの青年です。外ハネの青年は青年から事情を聞くと、腕まくりをしてみせました。

「はいっ、三成殿のお頼みとあらばこの真田、死地をも脱しましょう!」
「いや、それほど深刻ではないのだがな。しかし幸村が手伝ってくれることは本当に助かる。さあ、ゆくぞ」
「はい!」

 外ハネの青年の元気な返事に満足した青年は、またすたこらと畑に戻り、休んでいたおじさんに胸をはって外ハネの青年を見せました。外ハネの青年の助力に、おじさんはたいそう喜んでみせます。
 そしてまた、おじさんは棒を、青年はおじさんの腰を、外ハネの青年は青年の腰をつかみ、うんとこしょ、どっこいしょ、と掛け声と共に棒を引っ張ります。ほんの少しだけ、ずり、と棒が動きます。ですがつっかえているのか全く動く様子がありません。

「……一体これはなんなのだ」
「うーん……、岩のようにも見えますけれど」
「布なんですよ、これ」

 三人は頭を抱えて棒を見上げます。
 らちが明かない、と、今度は外ハネの青年が助っ人を呼びに出かけました。外ハネの青年が向かったのは、山奥の洞窟に住んでいる金髪の巨人のところでした。

「慶次殿ー、いらっしゃいますかー?」
「あいよー」

 金髪の巨人は眠そうにあくびをこらえながら、奥から現れます。外ハネの青年はあれこれと今までの経緯を説明し、協力を要請します。すると、巨人は目を輝かせ、承諾しました。

「なーんだかわけわかんねえけど、楽しそうだぜ! おっしゃ、いっちょ傾くか!」

 巨人は洞窟から完全に体を出し、木々をなぎ倒しながら走り去っていきます。外ハネの青年五人分ほどの高さのある体のため、一般家屋には到底住むことができないので、こうして山奥に隠居していることを思い出した青年は、苦笑いを浮かべ、もはや獣道どころではない道を走ります。

「ほーう、これが例の、謎の物体か。巨大って聞いていたが、そんなに大きくねえな?」
「お前がそのぶんでかいからだ」
「はっは、違いねえ」

 おじさんや青年たちから見れば巨大な物体だった白い棒も、巨人からみれば小さな白い棒にしか見えないようです。

「で、これを抜けばいいんだな」

 そう言った巨人は、ひょいっ、と軽々棒を抜いてしまいました。あれほど力をこめて引っ張っても抜けなかった棒が、赤子の手をひねるように抜けてしまい二人はぽりぽりと頭を掻きます。
 さらに、抜かれたそれを見て、今までわくわくてかてかしていたおじさんと青年は、唖然とした表情を殺しきれませんでした。

「……なんだね、これは」
「いや、見てわかりませんか?」
「できればわかりたくなかった。……兼続」
「う」
「兼続殿?!」

 ちょうど戻ってきた外ハネの青年は、巨人が手に持っているものを見て驚きました。なんと棒だと思っていたそれは、人間であったからです(正確には、人間の被り物ですが)。また、その人間はどうやら、知り合いとそっくりのようです。

「掘り返してくれて、ありがとう。助かった」
「んー? どうして埋められてたんだ、おめえ」
「近所の子供が悪さをしてな、埋められてしまった」
「子供って無垢で残酷ですからね」

 巨人の隣に立った白い巨人は体についた泥をはたきながら、大きなため息をつきました。





結論:子供怖い・大は小を兼ねても小は大を兼ねない。
09/30