目を覚ました。妙にすっきりとして、軽やかな目覚めだ。
起き上がると体の節々が痛む。敷いてあるわらの量が少ないことが原因だろう。しかし、その痛みも頭の回転の鋭さに助勢してくれているようだ。
とても爽快な気分だった。これほどすっきりした頭なら、考えることにさほどの時間は必要としないだろう。まずは整理から始めることにする。
過去三回、奇妙な体験をした。これは四回目の体験である。そのことは明白だ(理由はない)。その体験の中で俺は『三成』を知ろうとしていた。その流れを汲んで、また三成について分析する。
前回のことから三成は道徳的観念が強いらしいということが知れた。また、人に接することがあまり得意ではないらしい。同時に、やたらに言葉にしたがるたちの人間だ。まさしく俺もその類だ。やはり俺は三成だ。間違っていない。……いや、俺が三成で、その三成を知ろうとしているから、俺以外の誰であるはずもない。
あの男の名前を俺は知っていた。兼続。それがあの男の名だ。兼続は前回も死んだ。おそらく今回も不運に見舞われる可能性がある。その前に、俺は兼続と話をし、かっこたる三成を手に入れたい。
どうにも俺は俺なのだが、三成という実感が薄い。こうして客観的に分析しようとしているからか、なおさらだ。真に客観的な三成を知れば、俺は三成をさらにくわしく知ることが出来る。そうすれば、俺は誰にも文句がつけようにないほど、三成になる。うんざりするほど三成になるのだ。
そのためには兼続が死んでしまう前に、俺は兼続を見つけ出さなくてはならない。
前回も前々回もその前も、兼続は死んでいる。なにかしらの理由で死んでいる。俺と話したくないから死ぬのか、たんに不運なだけなのか、わからない。死にたくて死んでいるとは思わないが、疑いたくなる。
兼続は不運という言葉が似合わないほどにはつらつとした頼もしい青年であるような気がしているが、死ぬ瞬間の死神に愛された兼続しか俺は知らない。三成を知るという目的もあるが、兼続のこともよく知りたい。そのためにはここで考えている暇などない。
俺は立ち上がり、少しのわらを蹴って出入り口に向かった。
この住居の難儀な点は、穴を掘ってその上に住居を建てているという点だった。どこか湿っている感じもするし、出入りが若干めんどうだ。
文字通り、這うように出入り口を抜けた俺はすぐに兼続の姿を探した。少しの女が点在するだけで、兼続の姿は見当たらない。今までの経験からして、俺は意外と兼続の近くで目覚めることがわかっている。だから兼続もこの付近に存在することは間違いない。
この集落の、どこかの住居の中にいるかもしれない。俺は一つ一つ、住居の中を覗いてまわった。
いくつか見て回ってから、はたと気付いた。
兼続は今回も不慮の事故などによって死ぬだろう。ならば、どうやって死ぬのか。住居の中だ。水がめの中に頭をつっこんで溺死するのか、わらで首を絞めるのか、転んで石に頭をぶつけるのか、黒曜石で首を切るのか、住居が崩れて窒息するのか。考えられるほとんどが自発的なものなので、却下だ。完全な理由はないが、兼続は自ら命を絶つような真似はしない。
ならば転んで石に頭をぶつけるか、住居が崩れて埋め立てられてしまうかだ。
俺は大きな石があるか、今にも崩れそうな住居を集中して見て回った。
しかしそのどこにも兼続はいない。隣の集落まで見に行かないと、いないのだろうか。だが、そんな時間があるだろうか。この熟れきった焦燥は、時間がない、急げとうるさいほどに怒鳴っている。
そのとき、女の会話が耳に入ってきた。内容は、男たちは狩りに出かけているということだった。
なるほど、狩りならば住居の中にはいないうえに危険がいっぱいだ。
俺は森を探そうと周囲を見回した。そのとき、耳をつんざくような悲鳴と慌しい足音が聞こえた。
その方向を見ると、森があった。森はあそこだったか、と森へ向かおうとしたが止まらざるをえなくなった。焦燥感は絶頂に達し、もはや安楽さえ導いているかのようだった。
兼続が森のほうから、叫びながら走ってきている。生きている彼をこんなに間近で見るのは初めてだ。その兼続の後ろをイノシシが親の仇とでもいうように激しく追いかけてきている。イノシシは頭をもたげ、兼続の背中に頭をぶつける。
兼続は空を飛んだ。
地面に叩きつけられた兼続に声をかけようと思ったが、無駄なことだと思った。
知覚に必要な時間
04/24