風の噂で、兼続殿がお家存続のため、徳川殿に陳謝したと聞いた。
その瞬間、地面にぽっかりと穴があいて、私だけ地下深くに沈みこんでいった。
いや、私の立っている場所を残して、周りが急上昇したのかもしれない。
ひとり、私は地に取り残されている。
深く滅入ったせいか(はたまた周囲が異様に高くなったせいか)、光はちっともあたらない。
足は腐った。
もう、歩けないとすら思った。
馬から落ちかけた私を拾いあげた手が、また延びた。
地にはいつくばり、腐った足を叱咤していた私の腹を、強く抱えた。
例えば、馬よりもずっと速い乗り物があって、その乗り物は誰の力で動く?
勝手に動き回る乗り物など、ありはしない。すべて、乗るひとの意志だ。馬はひとりでも走る。しかしひとが乗れば、馬はひとの意のままとなる。
私は、誰かの馬にすぎなかったのか?
振り落とされたのは幻想で、私は彼に操られていて、そして乗り捨てられた、馬?
ひとり、帰ってきもしないひとを待ち、いななき続ける、孤独な、馬。
私を抱えていた腕は、ゆっくり解かれる。縋りたい衝動にも駆られる。でも縋らない。
皆、縋らなかった。
それは、自分の義に絶対的な自信を持って、その道を歩んだからだ。
私も、訳のわからぬままに言っていたことだが、誇りを持ちたい。
幻覚だ。手など差し延べられてはいない。私はひとりだ。ひとりで立つしかない。
三成殿も兼続殿もいない。
慶次殿は、もう私を助けることもあるまい。ただ、見守ってくださるのみ。時にはひどく残酷で、最高のもてなし。
表裏一体の、月と鼈。
兼続殿の義は、私の義とはまた違うものだったのだろう。外見はとても、似ていたのだが。
いや当然のことだ。そっくりな顔をしたひと同士でも、人格はやはり違うし、似た容貌の馬でも足の速さは違う。似た外観の城に住むひとも、内装も、なにもかもが違う。
義も、そういった性質のものなのだ。
全てが同じではないのだ。
義を、貫く。
「手綱は消えたのか?」
〆