雨が降りき。
好きか嫌いかなど野暮なる質問はいらず。膨大なる執務の間、ふと格子の外より外に落つる水が雨なり。をかしきなど凡庸なる感想すら思はず、唯々空より地面に吸ひ込まるる雨を見き。
鳥が自由などをこなり。
疲れが頂を見し思考は突飛にとりとめがなし。が、余計なる雑念が無いぶん自分に直球なる思考なりとも思ふ。五十歩百歩なり。(思考にちなみ)
そこにて暗転。思考の晦冥。
いかんせん疲労したるときの思考は単純なるが複雑なり。(この矛盾の追求にはいささか飽き飽きしたる)横道にそるるが大好きなるなり。疲労思考回路は。
格子の傍に寄り、物憂きごとく低き空をまもる。それより視線を移す。唯々単調に落ちていく雨。雨。雨。ゆくゝは枯渇。意味を問はまほし。(誰に、)
意味を追求するは悲しききはにあやなしと思ひにき。その時点になにもかもがあやなくなる。意味を追求すれども真に求むる答にはありつけず。なればこそせんなし。
この感情の意味をゆかしけろ。この行為の意味をゆかし。極論、人の生死の意味すらつきつめたし。誰が、なるために、個の感情など邪魔なるものを。
雨でも鳥は飛ぶなり。
我は飛ばず。
ゆくらゝに惰性、身を委ぬるも程々に。
たまに暇をやらばやがて飛びていきず。かやつは鳥なりしや。飛ばざる我は飛べざるはずがなし。飛ばざるのみなり。
絶対の信頼など、うたてし。信頼などせず信用に留まればよかりきむるものを。(戻れなきは百も承知に戻る気などもきはよりあらぬ)
逃げ。敵前逃亡なり。
問ふ。いかで逃ぐ。而して意味を問ふになる。をこなり。さてさて矛盾したるにそのよしを薄々ながらに察し。我ながら利根すぎて腹立たしく思ふ。
全照、眩しさに目を細む。
明転、広き部屋の仰々しき襖。ゆるゆると控え目に開く。同様にゆるゆるとうちいづ。
腹悪しくふわりと薫る香に悪態を吐く。十分知ってゐるべし。
気付けぬのだ、醜ゐ己の匂ひには。
(我は唯々偽るやうに悪態を吐き続けき)