せっかちな人という訳ではないんだろうが、目に付いたらすぐに片付けないと気が済まないたちの人のようだ。
三成さんは到着した早々、ねこを振り落としくまを置いて庭へ行くように言って聞かせ、頭についている(という表現が似合う)きつねはそのままに「掃除だぞ」と。これまた急な、と思いながらも雑巾を探しにそこらじゅうを覗きまわった。
戻ってくると、頭に乗っかっているきつねのコンの頭を撫でながらなにかぶつぶつと呟いているようだ。声をかけていいものか悩んだのだが、コンがこちらに気付き、尾を振ったのでなんとなく「考え終わったのか」と思った。
掃除をしながら三成さんを観察する。
三成さん自体は普通に掃除をしているし、特におもしろみのある動きをしているわけではないが、コンがおもしろい。三成さんの背中であっちにいったりこっちにいったりと楽しそうに動き回っている。それをまったく気にしていない三成さんも三成さんでおもしろいのだが。
庭を見てみるとねこが集まって庭をほじくり返そうとしている。それは困ると思ったので、パン、と手を鳴らしたら蜘蛛の子を散らしたようにあちこちに逃げ回っていった。テノヒラという名前のくまは日向で寝ている。
昨日までなにもなかったとこだが、三成さんひとり連れてきただけで賑やかになった(正確には三成さんひとりと十匹)。まあちいとばかしにぎやかすぎるという感も否めないが。
しばらく掃除をしていると、三成さんが俺のことを「殿」と呼んでいいかと聞いてきた。
そういえば、一応は主従だった。しかし俺はなぜか三成さんに頭が上がらない。俺がひとを召抱えたのが始めてで実感がないだけかもしれない。
三成さんはどーにも白黒はっきりつけたいようだ。だが、俺はあえてそこをぼかすことにした。どういうわけか、この俺よりも若い、動物に好かれるこのひとに頭があがらないのだ(……俺は、動物か)。
「まーまー、どーせ大したこともないんですし、フツーにしましょーよ」
「普通って……」
「とりあえず、掃除終わらせちゃいましょ」
そんな堅苦しいものを求めていたわけではない。
戦もないのんびりできる泰平の世だ。俺の千里眼では乱が起こる様子もないし、文字通りぐうたらしながら過ごすんだ。しかしまあ、三成さんはあんまりそういうたちの人間じゃなさそうだが。
すっかり掃除が終わった、と一息ついたところで茶を用意するかと立ち上がった。すると、三成さんが俺がやる、と言って聞かなかった。本当にこだわる人だ。
戻ってきた三成さんには、なぜかねこが体中にへばりついていた。さっきまで庭でぬくぬくしていた一から八だ(俺は見分けられないが)。当の三成さんはというと、猫がへばりついていようがお構いなしに普通の歩調で歩いている。
「茶だ」
「……はあ、どうも」
無愛想に置かれた茶碗を手に取って、一息つく。隣がニャアニャアうるさい。
茶をすすっていると、ニャアニャアという鳴き声に続いてビリビリと布が切れるような音がする。どうやらへばりついているねこをはがしたようだ。羽織のところどころ、糸がほつれ始めている。
いつのまにかテノヒラもやってきて、三成さんの周りには動物の防護壁ができている。
「すごい、人気者ですね」
「人にはこれといって好かれたためしが無いのだがな……。まあこいつらは愛らしいからな……、こら、調子に乗るな」
「そうですかー? 俺は三成さんのこと好きですが」
「そうか」
素っ気ない一言が返ってきた。
変な反応されても困るわけだが、こうも流されると少し寂しいような気がする。まあ、動物に好かれるヤツに悪いヤツはいないというわけだ。これからはしばらく、三成さんを観察することにしよう。
戦のためにあれこれ考えたり、よくわからん計算なんかしているよりもずっと楽しい。
10/08