神さま気取りのカテゴライズ





「よし三成、さすがだ! 不義はいま、購買を荒らしているぞ!」
「……」

なんだかんだ、流されて変身とかしてしまったが、もしや、この格好を全校生徒に見られるのではないだろうか、と俺は新たな不安に苛まれた。いや、格好だけならまだしも、俺は扇を取り出して、義ビームを撃ったりして、不義と戦うのだ。下手したら明日から学校内の話題の的になって、その噂が町内に広まり、さらにその噂が誇張され、地元テレビ局がやってくる。そのテレビを偶然見た、某大手テレビ局のディレクターかなんかが興味を持ち、先駆けて俺に単独インタビューをする。それが大々的に全国に報道されて、目をつけた他のテレビ局が学校に押し寄せ、我先にと俺に群がってくる。テレビでは俺を『頭脳明晰、容姿端麗、運動神経抜群の高校生、学校で暴れる不可思議な生命体を倒し、一躍ヒーロー!』といった具合に熱狂的に報道するだろう。それを全国の主婦や学生が視聴率に貢献し、テレビ局はうはうは。俺の万能さに目をつけたアイドル事務所は俺をスカウトするのに裏取引を繰り返し、俺は最も有名なアイドル事務所で注目新人アイドルとして肩を並べるだろう。俺の出演したテレビは連日高視聴率をキープ。一躍アイドルとなった俺に一目会おうと全国からひとが押し寄せてきて地元のみやげ物はバカ売れ。この高校は例年よりも多い受検者にめぐまれ、倍率は跳ね上がり、試験会場はパンク寸前。働きすぎた俺は、変態社長に襲われるなどして時代の波にもまれ、ノイローゼになりしばらく休業。すでに十分売り上げに貢献した俺はお払い箱となり、次第に忘れ去られてゆき、ひどいノイローゼを患いながら、ひっそりとどこかへ隠居するだろう。

『不義がやってくると大人が儲かる』……俺はなんの利益もない。


「兼続、その不義とやら、学校からは出ないのか? 俺はいやだぞ。俺のことを知っている人間は意外と多いらしいからな。こんな格好で出てみろ。俺は最後、骨と皮になるぞ」
「ん? いや、あの不義は学校に巣食っているものだ。学生の不義が溜まりに溜まったものだからな。しかし学生の不義だ。まだ擦れきってない、浅さがある。そんなに苦労はしないぞよ」
「そんなことを聞いているのではない。俺は、知っている人間にバレるのがいやなのだ! お前も見ただろう、クラスメイトを。あの女どもを! くのいちあたりにバレてみろ。俺は、恐ろしい……、女とは恐ろしい……」
「女難も昔から変わらぬなア。よし。そんなに嫌なら、これを使うがよい。神の七つ道具その三、ひょっとこだ!」
「ひょっ……」

兼続は懐をまさぐり、本当にひょっとこの面を出した。その顔は妙に自信に満ち溢れており、いったいヤツのどういう行動がそういう評価に至ったのか、詳しく知りたかった。
そしてそのひょっとこを、そっと俺の顔にかける(手つきが優しすぎてなんだか怖い)。

「ひょっとこをつけるくらいなら俺はこのまま突入する!」
「ああ待て待て。そんなに怒るでない。ひょっとこが気に入らなかったか……。なら、これはどうだ」
「これは……」
「巷で有名のダラダラ系、見ていて腹が立つと噂のダラックマだ」
「……お前は、俺を見ていると腹がたつのか!」

ダラックマ! 聞いたことはあるぞ。
ガラシャの机を見ろ。ダラックマシリーズで埋め尽くされている! 座布団もダラックマ、ひざ掛けもダラックマ、ペンケースもダラックマ、シャーペンもダラックマ、弁当箱もダラックマ、極めつけにカバンはダラックマのぬいぐるみリュックだ!
恐ろしい! 俺をからかう女が好きなキャラクターではないか!

「いやそういうワケではないのだが……、七つ道具のなかのお面系はもうこれしかないのだ。これかひょっとこか、どちらか選んでくれ」
「…………」

背に腹は変えられない、と言う。
つまり、ある程度の水準(俺の顔を隠すこと)のためには、他の犠牲(羞恥心)など、取るに足らない、しかたのないことなのだ。そうだ、背に腹は変えられない。
俺は、勇気を出してお面――ダラックマのほうをとった。
流石にひょっとこは、ない。

「さあゆくぞ! 時間もないことだしな!」

俺の顔はわりと、細長いほうなのだが、ダラックマは横に長い顔だ。あごが隠しきれていないが、誰も俺だとは気付かないだろう。
兼続に誘導されるまま、俺は購買に向かって走り始めた。すれ違った生徒たちに、ギョッとした顔で見られたが、今、俺は誰でもない。ただのダラックマ仮面だ!
しかし、流石に教師に呼び止められたときは対応に困った。
しかし今はエマージェンシーというものだ。こんな格好、こんな面の俺だ。バレるわけがない。
今は不義を討つことが先決なのだ。

「今回の不義については前調べをしてある」
「ほう」
「先ほども言ったとおり、此度の不義は学生のつもりにつもった鬱憤が不義という形で爆発的に放出されたものだ。主に『万引き』『援助交際』『飲酒喫煙』などなど、可愛らしい不義の集まりだ。ひとつひとつは取るに足らない不義であるが、その集合体ともなれば恐ろしい力を発揮するやもしれぬ。次いで言うが、学生はまだまだ大人の世界を目の当たりにしはじめたばかりだ。さほど擦れきっていないぶん、ひとつひとつの根は浅い」
「そんな小難しい考察など役に立たぬ。つまり、不義を義ビームで討てばいいのだろう!」

俺はそれだけ言って加速した。吐き出した二酸化炭素が面にあたって跳ね返ってくる。面の中は蒸れはじめて息苦しい。

「んーむ……、なんと行き当たりばったりな……。三成、お前は本当に三成か? いや、三成らしいようにも思えるが……」

俺はミツナリではないと何度言っても、この男は理解しないだろう。





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