折鶴の優しさ

義トリオ









三「むー」

幸「なにをしてらっしゃるのですか?」

三「む、ああ。折り紙だ。左近が怪我をしたので千羽鶴を折ろうと思ってな」

兼「ほう、義だな」

三「だろう、これは義だろう。ついでに愛もあると思わないか」

兼「うむ。愛もあるな。頑張れ!」

三「……」

幸「?」

三「……なんだ、手伝おうとか思わないのか? 左近のために千羽鶴を折る俺をお前たちは眺めているだけなのか? だってあれだろう。ここでお前たちが俺を手伝えば、左近への義と愛になると同時に、俺への義と愛にもなると思わないか?」

兼「む、そうか。三成への義と愛にもなるのだったら手伝おうか。なっ、幸村」

幸「? はい! その通りですね!」

兼(聞いてなかったなこいつ)

幸「で、なにを折ればいいんですか? 手裏剣ですか?」

三「お……、おま……! 俺の話も聞いていなかったのか! 千羽鶴と言ったではないか! 鶴を折れ!」

幸「でも怪我をしたのでしたら、これからは油断するなよ、という教訓で手裏剣を差し上げるのも義、ではないでしょうか」

三「そ、そうなのか?」

兼「三成! 義であればなんでもいいというわけではない!」

三「え、あ……そうか……。幸村、違うらしい」

幸「一番義が好きそうな兼続殿が否定するなんて……。義と言えばとりあえずオッケーという認識はもう通用しないのですね……」

兼「そうだぞ。私を籠絡したいのなら真の義を示せ。ま、真の義は籠絡などしないのだがな!」

三「幸村、鶴の折り方教えて」

幸「あれっ、三成殿、鶴、折れないのですか?」

三「鶴は折り紙なんかより実物のほうがずっといい」

兼「なら、本物の鶴を島殿に差し上げればいいんじゃないかな」

幸「千羽も? 気が触れましたか?」

兼「折り紙の鶴を三成に教える機会を失って私に噛み付くか、幸村」

三「お前も幸村に噛み付くな」

幸「生臭はあまり好まないです」

三「落ち着け幸村。で、兼続。鶴をプレゼントするというのはなかなかいい案だと思うが、千羽も捕まえられるか?」

兼「不可能を可能にすることこそ義と愛だと思わないか?」

三「……そうなのか?」

幸「違うと思います。義と愛は心の問題です」

兼「これも心だ。絶対に可能とは思えないことを実現する。怪我で臥せっている島殿に本物の美しい鶴、それも千羽だ。それらを差し上げ、怪我の回復を祈る。これほど心を打たれる話があるだろうか!」

三「……そうなのか?」

幸「……そんな気がしてきました」

三「じゃあそうだろうな。兼続、その案、採用だ」

兼「ふふ、これも義と愛の力」

三「一人あたり、およそ三百三十三羽だな。よし、頑張るか」

幸「それって、私も勘定に入って……」

三「え……。義……、義と愛の心をどこへほっぽり出してしまったのだ幸村」

幸「え、ぎ……、義……、これも、義と愛……いや、私は島殿に対する義理なんてないのですが……」

三「武田で一緒だっただろう。顔見知り程度ではあるのだろう。兼続を見ろ。左近との接点など皆無だというのに鶴を捕らえてくれるのだよ」

兼「え……。いや、これも義と愛か……。島殿のためというよりも、島殿のために献身する三成のため、かな。幸村、これも友だと思うのだが」

幸「え……、いや、あ……。でも私、折り紙以外の鶴を見たことがないのです。鶴って具体的にどういう生き物なのですか?」

兼「……三成」

三「えっ、お前、知ってるだろう鶴くらい。解説役はお前だろう」

兼「んー……、まあ、私と同じくらい白いと思う。目のあたり……ちょっと上かな? それが赤い。そんでもって、よく飛ぶ。これくらいか?」

三「おおよそあっていると思う」

幸「わかりました。三百三十三羽、必ずそろえてみせます」

三「ああ、皆で力を合わせれば千羽なんてあっというまだ」

兼「えい、えい、おー!」






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