触
サコ←トノ
「左近、ちょっとここに、名前を書いてくれ」
「いいですけど」かきかき
「ありがとう」
「いいえ」
「達筆だね」
「どうも」
「達筆すぎて『島』が『鳥』に見える。鳥の左近か。左近は鳥になって俺のもとから飛び立ちたい……、そういうことだったのかああ!」
「落ち着いてください」
「さこ! 俺、お前になんか悪いことしたっけ!」
「思い当たる節がないのだったらいっぺん産まれなおしてきてください」
「え」
「え」
「本当に俺、なんか悪いことしたか?」
「え」
「えっ……」
「昨晩、左近の盆栽食べようとしましたよね?」
「盆栽は食べ物じゃなかった」
「本当に思い当たる節はありませんか?」
「左近の盆栽に卑猥な名前をつけたことか……」
「そこじゃないでしょう盆栽を食べようとえちょまて卑猥な名前て、卑猥な名前て」
「ごめんね」
「はあ……」
「別に、食べたくて食べようとしたわけではないのだ」
「食べたくなかったのにあえて盆栽を食べようとした理由はなんですか」
「ほら、俺の、雑草グルメの血が煮えたぎってきて。盆栽は、どんな味がするんだろう……って」
「そんな底辺食生活はしないでください。せっかく顔面偏差値が高いというのに」
「民の上に立つのならば、民と同じ食生活をしてみようと」
「民だってそんな食生活はしていません。もはや野良犬の食生活です殿は」
「え? 俺、ペット? 左近のペット? うっわあ……、俺が盆栽につけた名前よりある意味で卑猥だ」
「若い人間は本当とんでもない妄想をしやがる」
「どうして年寄りは盆栽に目覚めるんだろうな」
「……左近を、年寄りと!」
「じゃ、ちょっくら用事があるから行ってくる」
「道中お気をつけて」
「左近、大変だ」
「わっ、ちょ、ここ、左近のお布団、左近のお布団です」
「あったかいな」
「寒い日に二人寄り添って眠るカップルのような睦言はいいですけどここは左近のお布団です。なんでいるんですか」
「昼間、左近に婚姻届に署名してもらっただろう」
「え、ちょ、婚姻届? うわあ、結婚詐欺!」
「兼続と幸村に食べられた」
「あなた友達も底辺食生活……、いや、それより結婚詐欺!」
「どうしよう、食べられた」
「別にいいんじゃないですか。左近にとっては好都合」
「俺と結婚したくないというのか。二万石分の働きは?」
「戦働きで返しますから勘弁してください」
「戦働きはしなくていいから俺のために毎朝味噌汁を作ってくれ」
「左近の今までの戦経験を全否定されるおつもりか」
「年寄りはそろそろ家を守るべきだ」
「怒りますよ」
「俺が怒っている」
「なんで左近が怒られなきゃならんのですか」
「俺の初恋を全否定したからだ」
「初恋は実らないものって言うじゃないですか」
「俺がそんな失敗をするか」
「もういいですから左近のお布団から出てくれませんか。左近は寝たいのです」
「二万石分の働きは?」
「……今?!」
「大丈夫。俺は寺小姓だったから経験豊富」
「……今?!」
「二万石分の働きを期待している」
「……これって、逆レ○プってヤツではないのですか……」
「大丈夫。合意の上だから俺は訴えないぞ」
「左近が訴える側でしょう!」
「左近、昔の人はいい言葉を残した。『据え膳食わぬは男の恥』。さあ、食うのだ」
「……年寄りなんでそんな元気ありません。おやすみなさい」
「ぶあああああ」
「わっ、ちょ、泣くの?!」
「今までの話を要約すると、俺はお前が好きらしい。どうぞこれからよろしく、だ」
「あーはいはい、おやすみなさい」
「ぬ」
09/23
(これがこのサイトの精一杯のサコトノというかトノ→サコ)