裸の殿様

五人









三「ぷ……ふろ」

左「今噛みましたか?」

三「風呂」

左「準備できてますよ、どうぞごゆっくり」

三「すまないな。兼続たちが来ると酔い潰れてしまう……」

左「いえいえ、たまの楽しみなんでしょう。今皆さんは?」

三「寝てる」

左「そうですか。あれ、殿ってもしかして今、寝起きですか」

三「なにか問題でも」

左「ないですよ。まどうぞ風呂にでもなんでも」

三「ん」とっとこ


左(寝起きかあ。どうりで怖い顔をしていたわけだ。寝起きかあ……。寝起き。しっかし、酔い潰れるまで飲んだのか? 誰も止めなかったんか。……寝起きかあ。寝起き寝起き。寝起き……寝おっき……。おっき!……なに考えているのかたまに自分がわからなくなる。でもそんな俺も好きだ。……本当になにを考えているんだ)


ギャアアアアアアア!!


左「悲鳴?」

兼「今のは三成の悲鳴ぞよ!」

幸「方向は?!」

慶「ふっろばだぜー! はっはー!」



どたばたどたばた


左「あっ、ちょ……、風呂場?……風呂場って……、やばい! 殿のおっぱい! 間違えた! すっぽんぽん!」


ばたばたばたっ


左「とのー!」すぱーん

三「さこー!」

左「殿っ、大丈夫ですかなにもされていませんか」

三「え、あ、ああ。大丈夫だが」

兼「たーんたーんたーぬきーのキー(ズキューン)はー、かーぜもなーいのーにぶーらぶらー」

幸「ちょ、兼続殿……、そんな眺めるものじゃないですよ……」

慶「そうだぜ兼続、少し自重しようぜ」

兼「いや、見ていたら無性に歌いたくなってきてな」

左「ぎゃああ前隠して殿! 前隠して!」

三「前? 後ろはいいのか?」

左「蒙古斑があるわけじゃないでしょう!」

三「そうか、前を隠さなくてはならないのか」

左「そうです。どうしてそうも羞恥心が……って、どこ隠しているんですか!」

三「前だが」

左「誰がビーチクを隠せと! もっと恥ずかしがるべき箇所があるでしょうに!」

兼「それは違うぞ、島殿。ビーチクを晒す方が恥ずかしい」

幸「ええ。ビーチクは隠さないとだめです」

左「なにその価値観っ」

三「そうだぞ左近。後ろと言われたら尻、横と言われたら脇、前と言われたらビーチクを隠すのだ。当然だろう」

左「下を隠してくださいっ!」

三「むりだ。おさまらん。だが、ビーチクはおさまる」

左「そんなところで男らしさを主張しなくていいですから!」

兼「これぞ、乳首隠して下隠さずだな」

幸「へえ、初めて聞きましたそれ」

兼「恥とは常に人に付き纏うもので、それを隠し切ることは出来ないという意味だ」

幸「勉強になりました」

左「帰ってください、普通に邪魔です!」

慶「三成……真の男とは、ビーチクも手におさまらないくらいでかいんだぜ!」

三「なっ……、なに?」

幸(……私、男じゃない!)

兼(慶次のビーチクってもしや……)

左「なんですかその嘘知識! 世の中の男性九割九分九厘が男じゃないじゃないですか!」

幸(嘘……なのか、よかった)

慶「いや、嘘じゃねえ」

幸「なんですとッ」

左「もういいですから! 殿も間に受けちゃいけません……、って」

三「ビーチクが大きい男こそ……真の男……」

兼「筆、いるか?」

三「ああ、いる」

左「いらないですからあああ!」

幸「待ってください。今、湯で墨をすりおろしてきます」

三「がんばれ幸村!」

兼「頑張れ、頑張るのだ!」

慶「フレーッフレーッゆーきむらっ! がんばれがんばれ幸村がんばれがんばれ幸村っ、おー!」

左「応援歌を歌わなくていいですから!」

三「……左近はさっきからなにを怒っているのだ?」

兼「わからん」

慶「あれじゃねえか? ジェラシーってやつよ」

三「なにに嫉妬しているのだ?」

兼「……三成の裸体に触れる空気に?」

三「なにっ、忙しい男だな……」

慶「風呂に入っていたら湯にも嫉妬していたぜ。危なかったな」

三「そうか……」

左「なぜそこで納得した」

三「違うのか?」

兼「じゃあアレだ。島殿は全裸よりもチラリズムに萌えるのだ。だから全裸の三成に怒っているのだ。『貴様、何故脱いだ!』とな」

慶「あるいは、ビーチクを隠しているのが気に入らないみたいだから、ビーチクが好きなのかもしれねえぜ」

三「なるほど……」

左「いい加減にしてください」

兼「ハッ! もしや、パイパン趣味なのかもしれん! 三成、毛を剃るのだ!」

三「いっ、いやだ!」

慶「そうか……。毛モジャは案外ショッキングだもんな。剃るか」

三「いやだ! 土下座されたって剃るものか!」

兼「来るべき日のために、尻の穴の毛も剃っておくか」

慶「三成はそんなに毛深くないからねえんじゃねえか?」

兼「……そうか……。みんなあるのだと思っていた」

慶「あ? 今度剃ってやろうか?」

兼「いや、これがきっと私のアイデンティティだからそっとしておこう。……さあ三成、剃るぞ!」

三「ちっ、ちかよるなあああ!」



どたどたどた



左「待てええええ!」がしっ

三「おごっ」

左「その格好で外に出る気ですか、女中が驚きますぞ」

三「それは……困る。俺の主の威厳が……」

左「左近の中では大恐慌で大暴落ですが」

三「そこはあとでフォローしておく」

兼「こらーっ、島殿ーっ、三成をはなせー」

左「俺は別にパイパン趣味じゃねえからいりません!」

兼「なんだ、違ったのか。ならしかたがない」

慶「……ところでよ、三成、なにかあったのか?」

三「なにが?」

慶「え、だって、俺ら三成の悲鳴を聞いて来たんだぜ?」

左(そういえばそうだった)

兼(そんなこともあったな)

三「あ、ああ……それか。風呂場に化け物がいた」

慶「化け物ォ? おいおい、今風呂場で幸村が墨すりおろしてんじゃねえか」

兼「そういえばいないと思ったら」

左「みなさん、案外薄情なんですね……」

慶「うおーい、幸村ーっ、生きてるかー」



幸「え? 生きてますけど……、なにかありましたかー?」



兼「返事があるぞ」

三「化け物はいたぞ」

慶「具体的にどんな?」

三「青っぽくて、あー……、赤だったか?」

左「まさか……」すぱーん

幸「わっ、びっくりした……。もっと静かに開けてくださいよ……。ねえ、風魔殿」

風「ふ……、混沌」

三「……乱波?」

左「やっぱり……。なに勝手に人ん城の風呂でくつろいでいるんだボケがあ!」

幸「待ってください! 風魔殿を殴らないで!」

兼「幸村……、乱波を庇うとは……」

幸「風魔殿は……、家が無いのです」

慶(家なき子風魔!)

幸「ご飯はそこらへんでいろいろ食べているのですが……、最近涼しくなってきましたよね。ですから、水浴びだと風邪をひいてしまいます。ですから、ここのお風呂に忍び込んだそうです」

左「はあ……」

三「……そういうことか。別に風呂くらいいくらでも入れ。だが俺を驚かすな。入るのなら一言声をかけるか、張り紙でもしておけ」

風「混沌!」

慶(返事?)

幸「……ところで」

三「なんだ」

幸「墨、作ったのですが、ビーチク、どうします?」



三「…………」







08/21