スイカに塩をかける

五人









三「……あづい。あづいぞ左近。クーラーなんてわがまま言わぬから扇風機を……」

左「いやですよ動きたくないですもん……」

三「おまえ……、まあいい。口論は暑くなる。なんか丁度良く、幸村とか来ないかなあ」

左「えー、あのひと暑いじゃないですか。炎とか出すし」

三「それは戦場でだろう。あいつは爽やか系だ。俺たちに爽やかな風を与えてくれるはずだ……」

左「そんなばななっ」

三「……ありがとう左近。少し寒くなれた」

左「よかったです」


兼「三成ー! スイカを持ってきたぞー!」

慶「ぜー!」


三「うわあよりによってさいあくなくみあわせがさいあくなときにやってきた」

左「殿、もうちょっとやる気だして喋りません?」

三「かんがえてもみろこのあづいときにあづくるしいくみあわせがやってきたのだぞ」

左「そりゃたしかに暑苦しいですけれど」

兼「お、なんだなんだふたりして、ダレてるなア」

慶「スイカ食おうぜスイカ!」

三「すいか……? なんだ、電車にでも乗ってどこかへ行く気か? ああ、電車のなかって冷房効いているな。しかしそれは電気泥棒だぞ」

兼「いやだなア三成。いくら暑いからとはいえ、少し無理のあるボケだぞ?」

左「すいかかあ、すいかかあ。いいねえ。水分たっぷり」

慶「が、普通に食ってもおもしろくねえ。傾奇者だったらスイカ割りだぜ!」

三「……ふーん」

兼「すっごく気のない返事だな」

三「ぶーん」

左「すみませんうちの殿すこし暑さにまいっちゃって判断能力が死滅しているんです」

三「ぶーん」

慶「まあ見てわかんなくもねえな。寝転がってエム字開脚してるくれえだしよ」

三「みつなりおぶじょいとい」

兼「慶次、こっちにくるといろいろ見えるぞ」

慶「いや見たくはねえんだけどよ……」

左「やめてくださいよ直江殿。殿を視線で汚さないでください」

兼「じゃあ、この三成の痴態が誰にも見られないように、ここにスイカを置いておこうか」

左「……え、その状態でスイカ割りする気ですか?」

三「ぶーん」

慶「まさか! もう一個あるぜ」

左「ふーん……」

兼「島殿はわかりやすいな。慶次、スイカ割りをしようか」

慶「おう!」

左(うわあ、ひとん城の庭で勝手にスイカ割りはじめたよ)

三「ぶーん」

左「ぶーん」


兼「しかし、ふたりで一玉も食べられるだろうか。あのふたりはゴロゴロしてるし」

慶「幸村にやればいいんじゃねえか? アイツは食べ盛りだかんな」

兼「そうか。よしスイカ割りを始めようか! 慶次が先にやったら私の楽しみがなくなるから私が先だぞ」

慶「あいよー」


三「……なんだあのふたり。まだいたのか」

左「よかった。殿が帰ってきた」

三「うむ。ちょっと夢のなかで人類の神秘と触れ合ってきた」

左「へえ」

三「なんか、全体的に銀色で、ぼんやりと光っていて、お洒落な服を着ている変な頭の形のやつだなあと思いながら見ていたらいきなり握手を求められて、握手をしたらあっちがすごく友好的で、へんな円盤型のお洒落な輿みたいなものに乗せてもらって、足首になにか埋め込まれた夢だ」

左「この短時間でずいぶんと冒険されましたな」

三「うん。ところでスイカ割り……、なんだこのスイカは」

左「ああ、それは」

三「うっ……、産んだ?!」

左「産んだ?!」

三「どうしよう左近! これはあのお洒落人間から『仲良くしてくれてありがとう』スイカだ! どうしよう左近、俺、スイカを産んでしまった……」

左「落ち着いてください。すべてのことには諸悪の根源があります。そのスイカの根本的な原因は直江殿です。直江殿がいけないんです」

三「兼続が? あ、たしかに、全体的に銀、というか白っぽいし変な頭の形をしているし……。そうか、兼続か」

左「夢と現実の区別をつけてください」

三「左近……、胡蝶の夢だ。ここでスイカを産んだ俺が夢で、現実はあっちで兼続と仲良くしている俺かもしれない……」

左「落ち着いてください」


ボグシャッ


三「キ ャ ア ア ア ア ! 左近! あっちで大変なことになっている! 友好の証が! 兼続のスイカが割れている! 交渉決裂!」

左(なんかもう泣きたくなってきた)

兼「ちぇー、やっぱり慶次が割ってしまったか」

慶「はっはー、いいじゃねえか。おーら! ダレ主従、スイカだぜー」

左「はあ」

三「かかか兼続! お前はもしや俺のことが嫌いなのか?!」

兼「へっ? いや、そんなことはないぞ。むしろ大好きだ」

三「しかしスイカを割って、なおかつ俺に渡してきたじゃないか!」

兼「む? スイカが嫌いだったのか? すまない、知らなかった。私としては精一杯のアプローチだったのだが……」

三「なにっ?」

左(もうなんだか泣きたい)

三(……つまり、兼続が言うには、お互いのスイカを割り、差し出しあうことにより義兄弟の杯のような……、なんだか、そういう親交を深めようということか! わかったぞ兼続!)「俺は今から、全力でスイカを割る!」

左「スイカがあまアい……」

慶(涙の塩ッ気で甘くなったのか……。大変だなあ、左近も)

兼「しかし、一玉もう割ってしまったし、二玉も割ったら食べきれないだろう」

三「お前……ッ、やはり俺のことが嫌いなのか?!」

兼「ええ?」

三「もういいもん。もういいもん。……わあ、スイカあまい」ぐすっぐすっ



幸「こんにちはー、真田ですー」ひょこっ


三「幸村!」ぴーん

幸「皆さん、お久しぶりです。夏風邪などひかれていないですか? 三成殿もお忙しいうえにお体も丈夫ではないでしょうに」

左(なんだか体よりも先に頭がやられちまってますよ、ええ。もう、スイカが甘くてかなしい)

慶「俺が風邪なんかひくタマに見えっかあ?」

幸「え、でもほら、慶次殿みたいな方って夏風邪をひきやすいってこのあいだ兼続殿が仰ってましたよ?」

慶「……」

兼「……」

三「幸村聞いてくれ。兼続はどうやら俺のことが嫌いらしい」

兼「なぜ?」

幸「……」

兼「やめてくれ。そんな目で見ないでくれ。『いい年して好きな子いじめてんじゃねえよクズが』って声が聞こえてきたぞ」

幸「よくわかりましたね」

兼「違う! むしろ逆なんだ! 私は三成(と島殿)が暑くてだれていそうだからスイカを手土産に遊びにきただけなのだ。そしたら三成はスイカが嫌いらしく、私はとんだ勘違いをだな」

三「なにを言うのだ。お前、俺がスイカを割ろうとしても止めたではないか」

左(そろそろ家に帰りたい)

慶「おーい、お前らさあ、スイカほっといてるけど、もう食わねえのか?」

三「……食う」

兼「?」(わからん? 三成の言っていることがちっともわからん)

幸「いただきます」(なんだかもうどうでもいいや)

慶「しっかし、兼続のスイカ割りのときのへっぴり腰といったらもう、笑いがとまらかったぜ。デジカメで撮っておいてよかったな!」

兼「なにっ?! 撮ってあったのか?!」

慶「そりゃ、我が子の成長の記録だぜ、たりめーだろ」

幸「わあ、兼続殿は慶次殿の子どもだったのですね」

三「……?」(おかしいな。なぜかさっきから俺とアイツらの話がかみ合わない。なぜだ? あのシルエットはたしかに兼続っぽかったが……)

左「……」




左(なんか……、もう……、どうでもいいや。殿が帰ってきますように。なむなむ。わ、スイカがすごくあまい)







08/03