浪漫奇行
三成 + 左近
「左近、俺はお前に頼みがある」
イヤな予感を存分に漂わせて、殿が現れた。
この殿はしょっちゅうぶったまげることを平気で、真顔で言うから俺もよく困っている。
「裸になってくれ」
「いっ…、イヤですよ!!」
ほおら来た。
今日はなにを言い出すかと思えば「裸になれ」と。
公衆の面前で裸になれと言った。
勘弁してくださいお願いしますから。
「む、なぜだ」
「少し考えればわかることじゃないですか!」
本当に不思議そうに、首をかしげるのも愛らしい…、なんて余裕もない。
一度言い出したら曲げない人だから、こちらも強い意思を持って応対しなくてはならない。
「……………」
どうやら殿は真剣に考えているらしい。
そんなに、長い間、考えないと、わからないのか・・・。
「………なぜだ?」
「なぜだじゃないっすよ!」
どうしてだ?
俺はあんなにも考える時間を与えたじゃないか。それなのに、どうして、と。
どうして、と平気で聞いてくる。
なぜ、は左近のセリフだと思うんですけど、違うんですか?
「いいから裸になれ。ほれ、ほれ」
と、俺の袴を引っ張り出す始末。始末に終えねえとはこのことだ。
紐を引っ張って緩んだ袴を一気に引き摺り下ろそうとする殿に負けるわけにはいかない。
「やめてくださいってば!」
袴が破れるんじゃないか、というくらい激しい攻防戦。
この俺よりも細い体のどこにそんな力があるんだ。
ふと、殿の力が弱まったのを好機に、俺は勢いづけて後ずさる。
少し考える様子を見せる殿に、不信感を募らせた。
「フンドシも脱ぐのだぞ」
「すっぽんぽん?!」
マジで勘弁願いたい。それは普通に無しだ。
なにが悲しくていきなりすっぽんぽんにならなくちゃならないんですか。
「ええいじゃあかあしい!いい加減観念しろ!」
「観念した先に待つのはなんなんですかー?!」
ドン、と畳に拳を打ちつけ、逆上する殿。
怒りたいのは俺の方です。
「裸エプロンだ」
「………観念できませんっ!」
「あっ、待て!」
不躾は承知で、俺は襖を蹴破って外に飛び出した。
外の世界の空気は、なんておいしいのだろう。
背後から迫りくる煩悩の塊を感じながら、俺はがむしゃらに走り続けた。
「裸エプロンは男のロマンなのだー!」
「左近も男ですー!」
ええ、殿も裸エプロンしてくれるってんなら考えてもいいんですけれどね。
なんてハレンチきわまりないことを考えながら、俺は逃げ狂った。
佐和山は本日も、煩悩でした。