カチズム
学パロの冬休み編
三「よっと」
兼「ほいっと」
幸「失礼しまーす」
左「……どうも、こんばんは」
三「ああ、こんばんは」
兼「やっぱり夜は冷え込むな」
幸「冬ですもんねえ」
左「一つ聞いてもよろしいでしょうか」
三「ああ」
左「なんで左近の家に来たんですか。どうして窓から侵入してくるんですか。なにゆえ左近の聖域を土足で踏み荒らすんですか」
兼「みんなで初詣に行くためだ」
左「……四人で?」
慶「俺もいるぜ!」
左「わ、本当だ」
幸「あの、みんなで初詣に行くのはいいのですけれど、足がなくて困っていたのです。そこで三成先輩が『左近なら車を運転する』と言ったので」
三「わかったか?」
左「わかりましたけれど、俺、眠いんです」
兼「年だからか?」
左「あまり失礼なことを言うと卒業させませんが?」
兼「職権濫用だ! 禁錮刑にするぞ!」
幸「キンコン刑?」
三「キンカン刑?」
慶「あー、キンカンはシミっからな」
左「それに、初詣ったってどこに行くつもりなんです? ここらへん、そんな大きなモンもないでしょうに」
兼「行くならやっぱり明治神宮が成田山だよな?」
幸「でも事故おこしてしまったら責任は先生にあることになるんですし……、やめておきますか?」
慶「初詣には屋台が出てるんだぜ。イカ焼きにジャガバター、チョコバナナ、今川焼き……」
幸「え、財布持ってきてないんですけれど」
左「え、ちょ、初詣に行くのに十円も持ってないのですか? 何しに行くんですか」
三「お前、公務員だろう。金持ってんだろう」
左「いやだその偏見!」
慶「ま、メシは先生のおごりで、車は先生が運転して、布団は先生が貸してくれて」
左「ちょ、お泊り大会する気ですか!」
三「なにか?」
左「さも当然のようにあぐらをかかない! 言論の自由があるはずです。反論の余地をください」
兼「……」
幸「……」
左「え、ちょ、そんなウサギを絞め殺すような目で見られると左近の心臓がしぼんじゃうのですが」
三「反論の余地をよこせと駄々をこねたから反論の余地を与えたのに、お前は注文の多いやつだ。あと兼続も幸村もウサギは絞め殺さないからそんな目をするはずがない」
左「それは、暗にウサギじゃなくて左近を絞め殺すと?」
兼「それなんて被害妄想?」
幸「眠いだけですよ」
左「凶悪なまどろみ顔ですね」
三「ほら、幸村がおねむだ。とっとと初詣行って帰ってきて寝るぞ」
左「だから反論の余地を……」
兼「……」
幸「……」
左「……すみません。眠いんですね。わかりました。早く初詣行きましょうね。うん、そうだ、それがいいですね」
幸「先生って優しいですね。ありがとうございます」
左「左近が優しいのはわかりましたからその目で笑わないでください」
兼「ほら、慶次、行くぞ。ほら起きろ」
三「寝ているのか?」
兼「慶次は良い子だからな。いつも九時には寝てしまうのだ。もう十一時半だし、しかたないことだ」
左「じゃあ慶次さんは置いていって……」
幸「……」
左「……連れて行きますよ。わかりました。左近が車に引きずっていけばいいんですね」
幸「やっぱり先生って優しいんですね」
左「……やっぱり笑ってもらってもいいでしょうか。予想外に怖かったです」
三「やっぱり注文が多いな、お前は。強欲なやつめ」
兼「まあまあ、あくまでも私たちは依頼人なのだから多少のことには目をつむるべきさ」
三「しかしな……」
左(ちっくしょ、言いたい放題言いやがって……)ずるずる
幸「それにしても楽しみです。みなさんと初詣なんて!」
兼「私たちはもうすぐ大学だから引っ越すからな。思い出は色褪せないものだから、たくさん作っておいて損はない」
三「ま、思い出は美化されるものだがな」
幸「じゃあ、数年後の私の脳内では島先生は優しい恩師ということになっているかもしれませんね」
左(……ちょっといい話かと思ったらやっぱり俺を貶す方向からチェンジコートできないのか)ずるずる
三「なにを言っているんだ、幸村。美化せずとも左近は良き教師ではないか。十分、恩師と言ってもいいかもしれんぞ」
兼「そうだな」
左「み、三成さんに、直江……」
幸「私は、先輩たちとは学年も違うし、島先生は現文の教科担当という接点くらいしかないので……。でも、先輩たちがそうおっしゃるのでしたらそうですね」
左「真田も……。お前、遅刻ばっかりしてるから、これからもこの左近がしっかり指導してやりますよ」
幸「あ、先生」
左「なんですか」
幸「お賽銭持ってきていないので、五百円玉もらってもいいですか?」
左「ちょ、硬貨で一番高価なもんを選ばないでくださいよ! せめて謹んで十円玉くださいって言うべきでしょうが!」
兼「硬貨で一番高価……。ただでさえ寒いのになぜあえて余計に寒くなるような発言をしたのですか?」
左「いきなり敬語で話しかけないでください! 傷ましいほどの距離を感じます!」
三「あ、俺も財布忘れた。左近、五百円」
兼「……私も」
左「いっきに千五百円の損失ですか! 冗談じゃないですよ!」
幸「真田はジャガバターを所望します」
左「また五百円クラスのおねだりなんかして! これで二千円の損失になるじゃないですか! これにあわせてガソリン代も……」ぶつぶつ
三「左近、俺と兼続は二人でひとつのジャガバターを分け合うから」
左「二千五百円めの損失!」
三「慶次は寝ていてかわいそうだから二つくらい買っといてやってくれ。あいつはよく食う」
左「三千五百円め……! いや、もしやその上慶次さんの賽銭も俺が負担……? となると四千円! そのうえ自分の賽銭とジャガバターを加えると五千円! ひいい!……いやまて、自分の賽銭は十円でいいし、ジャガバターも別にいらないし……」
兼「先生、生徒に夢を与えてください。あまりお金のことで見苦しいところを見せないでほしい。幸村、見ちゃだめだぞ」
幸「わかりました」
三「……あ」
ボーン
兼「おや」
ボーン
幸「除夜の鐘、ですね」
ボーン
左「……ああ、煩悩が抜け落ちていくような、いかないような」
三「あけましておめでとう」
兼「今年もよろしくお願いする」
幸「ハッピーニューイヤー!」
左「……ええ、あらゆる意味で、よろしくお願いします……」
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