ジャイアニズム

「義トリオのひこにゃんとしまさこにゃん批評」(弍裡 僭さま)









かんかん


三「静粛に。異論があるのならば静かに挙手するように」

兼「……」すっ

三「兼続」

兼「議題がばかばかしくて議論する気にならぬので、別の議題に変えていただきたい」

三「……『左近に胸毛があるか否か』は、そんなにばかばかしいか?」

幸「というよりも、あまり興味がありません」

兼「三成なら知っていそうだと思っていたのだがな……。清い仲なのだな」

三「うむ。清潔なものが一番良いからな」

幸(もしかして一生清い仲のままじゃ……)

兼「まあ、そこで代わりに私がひとつネタを持ってきたのだが」

三「どんな?」

兼「これを見てくれ。この間、旅行に行ったときに手に入れたのだがな」

幸「……猫?」

三「ぬこがどうかしたのか」

幸(ぬ?)

兼「ひこにゃんだ」

幸「ひこにゃん?」

兼「そしてこれが、しまさこにゃんだ」

三「しまさこにゃん……」

幸「……で、これがどうかしたのですか?」

兼「率直なところ、感想が聞きたい」

幸「かわいい」

三「憎い」

兼「なにが憎いのだ?」

三「俺の左近が大衆の目に触れられ売り物にされていることが非常に憎い」

幸「でもかわいいですよ、これ。目つきが悪くて」

三「俺の左近はそんな寸胴体型ではない」

兼「んー、しまさこにゃんはおいておいて、ひこにゃんはどうだ」ずいっ

三「……」

幸「見つめあーうとー、すなーおにー、おしゃーべりー、できない」

三「……すっとぼけた顔をしているな……」

兼「ああ、たしかにすっとぼけてる」

幸「巷で人気のゆるキャラですからね」

三「……腹が立つ」むいっ

兼「あっ、ちょ、私のひこにゃんをどうする気だ!」

三「たるんどるからこんなすっとぼけた顔になるのだ。訓練してやる」

幸「相手はぬいぐるみですよ!」

三「問題ない。マッキーがある」

兼「油性ペンっ! ひこにゃん! 逃げろ、逃げるんだー!」

幸「ひこにゃんが目つき悪くなっちゃったら、しまさこにゃんとキャラが被ります!」

三「しまさこ……にゃん」

兼「ほら、これがお前の左近だ」むいっ

三「左近……」

幸「よかったですね、兼続殿。ひこにゃん返してもらえて」

兼「ああ、しまさこにゃんはもともと三成にあげる予定だったからな」

幸「私には?」

兼「え?」

幸「私にはお土産ないのですね……」

兼「えっ、あ、その……、あ! 『お館さまんじゅう』ならあるぞ」

幸「消耗品ですか……」

兼「あ……、う……、すまない」

幸「いいえ、いいのです。私と兼続殿の友情はお土産程度では揺るぎません」

三「しまさこにゃん」

兼「どうした?」

三「作られた意味が理解できん」

幸「しまさこにゃんがですか?」

三「俺の左近をこんな形にしたことはある意味グッジョブだが、意味がわからんと思わないか?」

兼「そうか?」

三「よく考えてみろ。ひこにゃんは『彦根城四百年』という記念で作られたマスコットキャラクター」

幸「時代設定がちょっとおかしいですけどね」

兼「そこはご愛嬌だろう。いつものことだ」

三「しまさこにゃんは、なんぞ? 佐和山城の『公式』のマスコットキャラクターでもなし、彦根城四百年の公式マスコットキャラクターでもなし。一応は、佐和山PRのためのキャラクターであるらしいのだが、公式ではない。なんぞ、このフリーターみたいな左近」

幸「お詳しいですねえ」

兼「そんなこと、消費者は気にしないのだよ。かわいければおけ!」

三「それもそうだが、はっきりさせぬことにはこの左近、いつまでもフリーターだぞ」

幸「いいじゃないですか。もともとフリーターになったところを三成殿が雇用したのですから」

三「……そうか。俺のキャラクターが現れれば左近は正社員になれるのだな」

兼「……と、いしだみつにゃんを知っているかな」

三「俺?」

幸「三成殿も猫になっているのですか!」

兼「ああ、そうだ。……これだ!」ばっ

三「……これが俺か」

幸「かわいい……? いや、渋いですね」

三「これが俺か」

兼「うむ。厳しさのなかに愛嬌があるだろう」

幸「ええ。ただ、寝るときに近くにあったら怖いですね」

三「……ちょっと貸してくれ」

兼「ああ、いいぞ」

三「さこにゃんと、みつにゃん……」

幸「ぬいぐるみですよ、それは」

三「……帰る!」ダッ

兼「あ、待て! さこにゃんは三成にあげるが、みつにゃんは私のもの……」

幸「……もう返ってきそうにないですねえ」

兼「……」



兼続は人にものを貸すとき、慎重になった。






08/25