good night










三「我が問いに答えよ」

左「はあ……」

三「ここはどこかね?」

左「さあ……」

三「ええい! 答えろと俺はお前に述べ、お前は了承したではないか! さっさと答えんか!」

左「わからんものを答えろと言われても、左近にはサッパリで」

三「無為な問答をした」

左「でしょうな」

三「しかし本当にここはどこだ?」

左「どこと言われましても、『どこ』というには全く見覚えが……、いや、見覚えがないというよりも、特徴がない」

三「そうだ、特徴がない。見渡す限り、真っ白。まっしろだ」

左「いや、特徴がないというには特徴的すぎる」

三「それはおもしろい矛盾だな。興味深い」

左「何も無いから象徴的な特徴がない。ですが、この白さは実に特徴的ですね」

三「驚きの白さ! だな」

左「……まあ、そう言われればそうなんですけど。なんか妙な言い回しですね」

三「左近のフンドシもここまで白くない」

左「家臣のフンドシ事情にまでお詳しいのですね」

三「うむ」

左「それにしてもここで何をすればいいんですかね?」

三「なにって?」

左「いや、何らかの理由があってここへ来たのなら何らかの行動をもってして元に戻ると考えるのが自然かと」

三「……」

左「……」

三「まっしろしろすけとか出てきそうだな」

左「新しい都市伝説の幕開けですね」

三「がんばるか」

左「なにをですか」

三「まっしろしろすけ」

左「……左近に白に擬態しろと?」

三「俺はたった今考え付いたのだ」

左「左近が白に擬態することを?」

三「まあそうだが」

左「さもいいこと思いついた! と言いたげに言うことですか」

三「いや、俺たちは明らかに異質だろう?」

左「殿の頭の中はさらに混沌としていらっしゃるようですが」

三「最後まで聞けクソガ」

左「……怒らないでくださいよ……」

三「この凹凸すらわかりかねる、真っ白な空間において俺たちはなにものだ? 光がどこから当たっているわけでもないのに体に影が出来る。しかし俺たちが立っている場所には影ができない。俺の着物は何色に見える? お前は何色の着ている? 白ではない」

左「つまり、殿や左近だけがここで色づいている異端な存在ということですね。それで、白に擬態すればいいと」

三「そうだ」

左「で?」

三「む」

左「どうやって白に擬態しろと」

三「頑張って擬態する」

左「いや、頑張ってやるとか頑張らないでやるとかどちらかといえば優しげにやるとか時に強くやるとかそういう問題ではなくて、具体的にどうやって白くなれと」

三「頑張るに頑張るを乗せて目的を果たせば白くなれるんじゃないかなと俺は思う」

左「ほう。真っ白になったぜ……的な話ですね。それで、白くなるためにこの空間でなにを頑張ればいいんですか? どのような目標を見出すべきですか?」

三「白くなることを頑張る。その目標を果たしたとき俺たちは白くなっているだろう」

左「ああもう! そうだけどそうじゃない!」

三「うるさいな。なんなのだきみは」

左「確かに白くなる目標を果たせばそりゃ白くなってますよ! ですけどその目標を果たさないと白くなれないというか果たすことは白くなることですけど果たした後じゃないと白くならないじゃないですか」

三「まあそうだな」

左「……といいますか、自分でなにかしないと元に戻れないとか言っておきながら左近はこれが夢だと思うのです」

三「まあ真っ先に考え付くのは普通そこだよな」

左「どうやって起きましょう?」




慶「はあ……、どうしたらこんなに長い寝言を言うんだかねえ、この二人は」

幸「寝言で会話していますねえ。さすが、真に信頼のある主従とはこのようなものなのですね! 私も今度くのいちと一緒に寝てみます」

兼「愛だなあ」

幸「それにしても随分困った夢を見ているようですね」

慶「二人は同じ夢を見ているわけかねえ?」

兼「だろうなあ。私も謙信公と同じ夢が見たい! 夢の中で会って話がしたい!」

幸「私の槍さばきで快適に謙信公にお会いさせてあげましょうか?」

兼「確かに会えるけどもう起きられないねそれって!」

慶「はーいはいはい、二人とも落ち着けって」




三「もう起きられないね」

左「は?」

三「ん?」

左「落ち着けって」

三「うむ」

左「……いきなりどうかしました?」

三「漠然ともう起きられないような気がした」

左「つまり、ここはいわゆる死後の?」

三「……左近、ありうる。多いにありうる」

左「……いやだなあ、そんな不吉なことを……」

三「他にどう考えられる?」

左「どうとでも考えられるでしょう。まずここが死後のウンチャラだという確証がない」

三「いや、ある。俺はこれが夢かもしれないと思い、何度も目覚めたいと願い続けているが相変わらずこのザマだ。それに俺はこうして何度も自分の手の甲に爪を立てているが、全く痛みがない」




兼「ひゃっふ!」

幸「いきなりどうかしました?」

兼「三成が、私の足の裏をつねってる」

幸「ほんとですね」

慶「なるほど、つねっちゃいるが自分の手の甲じゃねえから起きようがないわけか」

兼「そんなことよりくすぐったい」

幸「正直どうでもいいです」

兼「どうでもいいわけないだろう。私の可憐なおみ足が蹂躙されているのだぞ」

幸「だからそれが正直なところどうでもいいんです」

兼「……慶次、幸村が冷たい」

慶「まあ正直どうでもいいわ」

兼「ここには敵しかいないな」




左「いやいや、それだけじゃなんとも。たまたま深すぎる眠りなだけかもしれないじゃないですか。それに夢の中では痛くないとしても起きたら痛いかもですよ」

三「じゃあ他にどう考える?」

左「左近の可憐なおみ足です」

三「正直どうでもいい」

左「……?」

三「?」

左「例えば……うーん、他には……、幸村殿が冷たいとか」

三「正直どうでもいい」

左「……」

三「……いやよくない」

左「ですよね」

三「なんかさっきから俺とお前が少し会話が成り立たないな」

左「敵しかいないですしね」

三「?」




幸「さきほどから会話が少しおかしいですね」

兼「私も経験あるぞ。これは現実で起きている現象が夢に流れ込んでいるのだ。現実のドタバタとした足音が夢に介入してくるような現象だ、これは」

慶「あぁ、あるねえ。こんだけ近くで会話していればよく聞こえるだろうしな」

兼「となると考えられることは一つ」

幸「二人は寝ている!」

慶「今さらその再確認かあ。傾きすぎだろう」

兼「私たちの言葉が介入するほど二人の眠りは浅くなり始めているということだ。もうすぐ起きるだろう」

幸「ほうほう。それで?」

兼「え、それでって……」

幸「それで、兼続殿はどうされるのですか?」

兼「えっと……、うーん、起こそう、かな」

慶「最初からそうしたらよかったんじゃないか?」

兼「いや面白そうだし、起こさなくてもいいかなとか思ってたし、疲れてるだろうし」

幸「どうやって起こしましょう」

兼「普通に名前を呼んで起こせばいいではないか」

慶「さこんーみつなりー」

幸「……起きないですね」

兼「いや、私が言えばきっと起きる。みつなりーさこーん」




左「なにやら先ほどからおかしいですな」

三「そうだな、なにかおかしいな。現実のどたばたとした足音のようだ」

左「よく聞こえますしね」

三「となると考えられることは一つ」

左「ほうほう」

三「さこみつ」

左「いや、みつさこ」

三「……」

左「……」

三「お前……そういう願望が……」

左「殿こそ……」




慶「起きねぇな」

幸「起きないですね」

兼「みつなりさこんみつなりさこんみつなりしましまさこんしましましましまみつなりみつなりいしだいしだいしだみつなりしまさこん」




三「正直俺はそろそろこの夢から目覚めたい」

左「左近だってしましまさこんです!」

三「何を言っているんだ、いしださこん」

左「いや殿こそなにしましまみつなり言ってるんですか」

三「落ち着けしなりさこん」

左「いや意味がわからないですみしま」

三「とりあえずしまこん俺は目をします」

左「目をしますってなんのことですか」

三「さます!」

左「はあ」

三「俺は、今から自分の頬をバチーンと叩く」

左「左近も起きます。やります」

三「うむ」

左「では、せーの」




バチーン



兼「ふぐっ」

幸「へぶっ」




三「? 目が覚めないな」

左「もういちど」


バチーン


兼「びゃっ」

幸「びゅっ」

慶「お前らってほんと見てて飽きないねぇ」

兼「くっ……二度も同じ手にかかるとは……なんたる失態!」

幸「とりあえず、起きたいそうなので起こしてみます」



ゴキャッ



三「びゃっ」

左「だっ」


三「……おはよう」

幸「おはようございます」

兼「おはよう」

慶「よ」

左「なんでみなさんいらっしゃるんですか」






05/01