青春よ、こんにちは

学園









幸「うーん、不思議ですねえ。いったいなんなんでしょう?」てってけてってけ

兼「そういうときは頼れる先輩に相談するのが定石」

幸「なるほど。では三成先輩に相談することにしましょう」てってってって

兼「あいやまたれい」

幸「いどぅあ! いたい! 一本だけ髪をつかまれて抜けた! 自然と涙が出るほど痛い!」

兼「痛めつけるのは趣味ではないのだが」

幸「もう、なんなんですか。これは立派な不義行為に値すると私は考えます」

兼「まあ落ち着いて私の話を聞きなさい」

幸「そのようなヒマ、私にはっ、ないっ!」てててててっ

兼「まあまあ待ちなさいって」ははは


びたーん


幸「いでゅあああ! まさかベルトをつかまれて上半身が勢いのまま進み床に頭をぶつけるとは思わなかった!」

兼「その、幸村……、言ってもいいかな……」

幸「……何を恥らっているのですか」

兼「その……、周りの目を気にして、自分はドジっ子じゃないアピールのために口でわざわざ説明しているのはわかる。わかるが、そっちのほうが……少し恥ずかしい……」

幸「……」ててててっ

兼「だから待ちなさいと言っているでしょう」

幸「ほあっ」

兼「せっかちなんだから」

幸「わかりました。わかりましたよ。さっきからいったいなんなんですか? 私は三成先輩に相談しに行きたいのです」

兼「そこが私が再三にわたり幸村を呼び止めた問題の核、コア、テーゼ、あるいはアンチテーゼとなり得る最大の論点であることは、誰にも否定することも覆すことも……」

幸「なるほど。そういうことでしたか。わかりました。では失礼します」てててっ

兼「まったく何度このやりとりをすれば気が……、避けた、だと?」

幸「さすがに私もそこまでバカではありませんのでね。失礼ながら緊急回避させていただきました」

兼「くっ、卑怯な」

幸「おや、かわいい後輩に向かって卑怯とは……不義が過ぎますぞ」

兼「『頼れる先輩に相談』と言って真っ先に目の前にいる私ではなくどこにいるとも知れぬ三成を思い浮かべる後輩なぞ知らん、知らんぞ幸村ァァア!」

幸「そうでしたか。私は兼続先輩と知り合い、あわよくば友人であると僭越ながら思っておりましたが……、兼続先輩が私を知らないというのでしたらこの関係は全て私の妄想だったのでしょう。わかりました。よく考えれば一人で歩いていたはずなのにいつの間にか背後に回り、私の悩みを盗み見るような先輩でした。実に残念ですが、今後お話することもないでしょう」てってってっ

兼「あっ、幸村! 今のは口がすべって……。……行ってしまった」




三「は? 幸村とケンカした?」

兼「そうだ。実はかくかくしかじかで」

三「……幸村は冗談が通じない子なのは知っていただろう」

兼(まあ、お前もな)

三「しかも一本気質で思い込みが激しい。誤解を解くのは骨が折れる作業だな」

兼(まあ、お前もな)

三(こんなに黙りこくって……、本当に反省しているようだ)

兼「どうしよう三成」

三「俺に聞くか? 言っておくが俺の人付き合いのへたっぷりをお前が知らないとも思えないのだが」

兼「そりゃ、そうだが。こういったときに相談できる友というとお前くらいしか」

三「お前に友認定されているのは嬉しいが、正直俺はまったく力になれるとも思えん。非常に残念だがな」

兼「むう……」

三「こういうときこそ、学校の先生というものに頼ってみたらどうだ。左近いいぞ。左近おすすめ」

兼「島先生か……。しかし、島先生はこう、ケンカとか無縁のイメージがあるからなあ。ほら、島先生っていっつも半分諦めたような苦笑いをしているだろう? それに生徒にも敬語で、距離を置いている感じがする。プライベートの人間関係も似たようなものだとしたら、成果は望めないだろうと思う」

三「しかし長く生きている分、人生経験も豊富だろう。的確な相談をしてくれるのでは?」

兼「むう。わかった。行ってみる」




兼「島先生!」

左「おわっ! 直江さん、突然現れないでください」

兼「失敬」

左「相変わらず、渋い言葉のセンスをしてらっしゃいますね」

兼「うむ、性分でしてな。ところで、かくかくしかじかで島先生にお会いしにきました」

左「いやいや、マンガでもあるまいし。かくかくしかじかではわかりませんって」

兼(三成には通じたのに……この先生だめだ)

左「あからさまに不満そうな顔されても」

兼「いえ、実は後輩とケンカをしまして。私が売り言葉に買い言葉で口を滑らせたことがきっかけだったのですが。それで、三成に相談しに行ったところ、島先生に相談したらどうかと提案を受けたので」

左「ほうー。直江さんでもケンカするんですねぇ」

兼「まあ……、お恥ずかしながら」

左「いやいや、まだまだ若いですからねえ。そういった衝動っていうものは誰にでもあるものかと」

兼「それで、なにか良い案でもないでしょうかね?」

左「そうですねえ。なにぶん若いですからね。衝動っていうものは溜め込むとよくないもんです。体にも心にもね。ですから、あんまり溜め込まないことがいいと思うのですよ。特にこういった、若い友達同士なんかの衝突による衝動は、解放してこそ美しいんです。つまり、青春なわけですよ」

兼「はあ……、ありがとうございます」

左「まあ三成さんみたいに、常日頃っからぺっぺっと一から十まで言うのもどうかと思いますけどね」

兼「そこが気に入ってるんです」




三「そうか、兼続とケンカしたのか」

幸「はい……。冗談だとはわかっていながらも、なんだかショックだったので……」

三「ところで、その最初の悩みというのは結局なんなのだ? それが事の発端というわけでもないが、きっかけくらいにはなったのだろう」

幸「あ、はい。なにやら、下駄箱の中に手紙が入っていまして、これがいわゆる恋文というものではないでしょうかと悩んでいたのです」

三「ふうん。まあ兼続と仲直りしたいのなら早めに行動したほうがいいのではないか。こういうことは時間を置くと気まずさが勝って素直になれないものだ」

幸「あ、はい」(ふうん。で片されてしまいました……)

三「……」

幸「……」

三「なんだ、まだなにかあるのか」

幸「その……、なんて言って謝ればいいのかと」

三「俺に聞くか」

幸「……それもそうですね。では失礼しました」

三「……あ、まて幸村」

幸「はい?」

三「今思い出した。昔左近が言っていた。若いうちは衝動というものがあって、その衝動を抑えることはあまりよくないらしいぞ。もちろん、まったく抑えないことは理性の決壊であるから褒められたことでもないが」

幸「はあ……」

三「つまり、ほどほどにガス抜きが必要なのだと。そういえば、こういった青春的なものはむしろ衝動を解放したほうが美しいみたいなことも言っていたかな」

幸「なるほど。つまり、青春的な仲直りをすればいいんですね!」

三「ん……? まあ、そうかな?」

幸「わかりました、ありがとうございました!」





幸「青春的な、仲直り!」


兼「青春かあ……。いまいちわからんな。本での知識しかない」


幸「青春といえば、充実した学生ライフ。部活動に友達、そして」


兼「うーむ。青春かあ……。青春の代名詞といえば」




幸「あ、兼続先輩」

兼「む、幸村」

幸「……」

兼「……」



政(やっぱり昼寝は屋上でもなんでもない、中庭に限るのう。……む、人の気配)



幸「……」

兼「……その、あの……だな」

幸「あの、私も言いたいことが……」

兼「む……、ゆ、幸村から言え」

幸「あっ、いや、その、兼続先輩からどうぞ」



政(なんじゃ、じれったいやつらじゃ。つか気味悪いな。もっと男らしくバァン! と言わんか。ったく、あいつらはナヨナヨベタベタいっつも一緒にいやがって)



兼「うむ……わかった。そもそも私が発端だからな。私なりに考えてきた」

幸「……」

兼「これが一番だと私は考える」

幸「……」



政(何を言うか知らんが、真剣すぎて引くわ。幸村もなんであんな泣きそうな顔しとるんだか。ケンカでもしたんか?)



兼「幸村……、私は、お前が、好きだ! とても大好きだ! これ以上にないくらい好きだ! だから嫌わないでくれ!」

幸「兼続先輩っ……!」



政(泣いたァー!……いやまて。あいつホモだ! こんなに幸村がかわいそうに思えたのは初めてじゃ。ホモに言い寄られてあんなに緊張しておったのか)



幸「私も、兼続先輩が好きです!」



政(なんだこいつもホモか)




三「仲直りできてよかったな」

兼「うむ。青春的仲直りだったぞ」

幸「はい、これ以上にないくらい青春でした」






03/01
とりあえず動かしてみた