希少価値

「いつもの五人のおままごとごっこ」(はやみさま)









三「今帰ったぞ」

幸「お帰りなさーい。ご飯にします? お風呂にします? それとも、し・あ・い?」

三「いや、死合はいい。疲れるから」

幸「そうですか。じゃあお夕飯にしますか」

三「ああ。……おーい、慶次、今帰ったぞー」

慶「お、親父、お帰り」

三「ほら、お土産だぞ。お前が欲しがっていたフィギア」

慶「わー、ありがとよ」

三「かまわなんだ。可愛い息子のためだ」

慶「ははっ、もう親父よりでかくなっちまったがな」

三「ああ……。俺と幸村の遺伝子を掛け合わせた結果とは思えないでかさだ。本当に」

慶「本当は親父の子じゃなかったりしてなあ! ははっ」

三「!」

幸「準備できましたよー」

三「ああ、今行く」

慶「今日の夕飯は豆だぜ!」

三「豆っ」

慶「左近も親父の帰りを待ってたぜ。遊びにいってやんな」

三「ああ」


てこてこ


幸「今日の夕飯は豆です」

三「本当に豆なのか……」

慶「育ち盛りには豆が一番だぜ!」

三「……左近、よしよし。お前の夕飯も豆だったのかね。かわいそうに」

左「ばうっ」

慶「いや、左近はたしか、豆みたいなドッグフード食ってたぜ」

三「また豆か」

左「ばうっ」

幸「おいしかったワン、だそうです」

左「ばうっ」

三「とてもそんな顔には見えないのだが……」

幸「おいしかったワン」

左「……」

三「言論弾圧か……。犬の世も世知辛いな」

左「……」

幸「今日の夕飯は、そら豆とえんどう豆、インゲン豆、納豆、ひややっこです」

三「見事に豆だな」

幸「大好きですから」

慶「でもなー、最近豆ばっかりで飽きてきたなー」

幸「大好きですから」

慶「好きだけどよ」

幸「慶次さんは小さい頃から豆が大好きでしたからね。豆ばっかり食べて育ったからそんなに大きくなったのですよ」

慶「そうかあ?」

三「ああ、そのことだが、幸村」

幸「はい?」

三「慶次って、本当に俺と幸村の子でいいのだよな?」

幸「当たり前じゃないですか。三成殿の精子が宇宙を旅して合体したのですよ。なにかと」

三「……」

左「ばう……」

三「左近、よしよし。お前が俺の癒しだ」

幸「また犬に泣きついて、この人はもう……」

三「だって、慶次があまりに誰にも似ていないから……」

慶「似てねえよなあ、確かに。お袋も親父も切れ長な目だがよ、俺はそんなことねえし。身長だってお袋も親父も超えちまってさ」

幸「……」

三「……左近、よしよし。よしよし。後で豆をあげよう」

左「ばうっ」

幸「とうとう、本当のことを話す日が来たようですね」

三「!」

慶「本当のこと?」

幸「慶次さん、あなたの本当の父親は三成さんではありません」

三「……左近、結婚してくれ」

左「ばうっ」

慶「親父! 逃げんじゃねえって! 左近もシッポ振るな!」

幸「慶次さんの本当の父親は、屋根裏部屋に住んでいます。会ってらっしゃい」

慶「怖い! すごくそれは怖え!」

幸「どうしても、そこがいいと言うので……」

慶「まあ……ちょっくら会ってくるけど、親父……、親父!」

三「左近、二人の愛があればどんな障害だって乗り越えられる。性別はもとより、種族だって……」

慶「そこは乗り越えちゃいけない線だろうが!」

幸「ふう……。やっと肩の荷が下りたって感じです」

慶「ひとりで完結してんじゃねえって! おら親父、行くぜ!」ずるずる

三「左近……、男はいつだって、自分の子を本当に自分の子か疑っているんだ。女は腹を痛めて産むが……、男は種をまくだけなのだよ……」

慶「はいはいはいはい」

左「ばうっ」

慶「ん? 左近も来るんか?」

左「ばう」

慶「まあ、いいけどよ」


てこてこ


慶「あらよっと。おーい、俺の本当の親父ー」

三「……慶次を育てた十七年間、全て偽りだったのか……」

慶「ったく、いざって時に親父はヘタレなんだからなあ」

三「はあ……」

慶「おーい、本当の親父ー」


ぬぼー


兼「呼んだか?」

慶「うおあっ」

兼「今、私のことを呼んだか?」

慶「えっとー、あんたが俺の本当の親父らしいことをお袋に聞いてな」

左「ばうっ」

兼「……とうとう話してしまったのか。いかにも、私が慶次の真の父親である」

三「そういえば左近、今日の仕事について言いたいことがあるのだが」

左「ばう」

三「いやなに、城下を視察しに行ったのだが、気になる点がひとつあってな。川があるだろう、川。その川の堤防の高さが少し不安だ。そろそろ雨季になるから補強する必要があると思うのだが、お前はどう思う?」

左「ああ、あの川ですか。確かに気になりますな。早速今から手配しますか?」

三「そうしよう。事が起こってからでは大変だからな。ついでに屋敷に雨漏りが心配な場所があるからそこも、明日にでも補強しようと思っている」

左「あー、あと、縁側も木が腐ってるとこありましたよー?」

三「なに、危険だな。他のものに注意を喚起しておくか」


兼「……三成、なぜ、いつも私の出番がくると集中力がブツ切りになるのだ?」

三「ああ、すまない。続けてよいぞ」

左「ばうっ」

兼「……不義だああああ!」

幸「あー、また三成殿が思い出し笑いでもしたのですかー?」

兼「今回は仕事の話をいきなりし始めたのだ」

慶「まあまあ、三成は仕事が生きがいみたいなやつなんだから」

兼「いつもいつも私の出番がやってくると三成はなにかしら変な行動をする私は悲しい私はむなしい私は寂しい」

幸「んー……、兼続殿、いっつも出番が遅い役ですものね」

兼「ヒーローは遅れてやってくるのだ」

慶「間男役が? ヒーロー?」

兼「……クジ運がないのだよ」

三「しかし今回は嫌に、リアルおままごとになったな」

左「そら豆、えんどう豆、インゲン豆、納豆、ひややっこのくだりがリアルでしたね」

三「それは……、実在するから、これ以上にないほどリアルだと思うが」

兼「はあ……。リアルおままごとなんか嫌だ。間男なんて。間男なんて! こどもの遊びではないか!」

慶「リアルだからいいんだよ」

幸「まあまあ、また今度、別の配役でやりましょうね」

兼「ああ。次は絶対に間男なんてやらないぞ」

慶「次はおままごとじゃなくて、だるまさん転んだにしようぜ」

幸「あ、だるまさん転んだの方が楽しそうですね」

三「俺も、リアルおままごとはもういいや」

左「犬はもう勘弁願いますよ」



兼続は一度しかないことの大切さを知った。






08/25