峠は近い

いつものメンバーでお風呂に入る









兼「裸の付き合いって、アレだろう? お互いの肉体美を自慢しあう、なんとかコンテストみたいなやつだろう?」

三「え、夜に布団の中でいちゃいちゃするやつではないのか?」

幸「なに言っているんですかお二人とも。裸の付き合いっていうのは裸で恋人的な意味のお付き合いをすることです」

三「それって俺が言ったことと違うのか?」

幸「三成殿のは、性的な意味でのお付き合いではないですか」

三「恋人って性的な意味合いを含む付き合いをしないのか?」

兼「それもあると思うが、それが一番ではないだろう。……いやもしかして三成、島殿はお前の体が目当てだったのか」

三「……! そう言われればそんな気がしてきたような……」

左「待ってください。殿と左近は残念ですがそういうことは一切、本当に一切ありませんので。全て殿の妄想なんです」

三「まるで俺が痴漢のような言い方だな。失敬だぞお前」

幸「それにしても、裸の付き合いってどれが正しいのでしょうか」

兼「私が言ったやつが一番健康的で健全だな」

左「風呂です」

三「風呂か」

兼「ああ風呂か」

幸「そういえば裸になりますね」

左(ここまであっさり納得されると微妙に怖いな)

慶「んーじゃ、みんなで風呂入るか!」

幸「あ、慶次殿」

兼「風呂か……、いいな、風呂に入ろう」

三「……」

慶「なにジロジロ見てんだよ?」

三「……いや、もうすっぽんぽんになっているのか……と不思議に思って」

慶「いーじゃねえか、心意気だぜ、心意気。なあ、兼続? 風呂に対する義だろ?」

兼「うむその通り。じゃあみんな、すっぽんぽんになれ」

左「ちょっとま」

三「しかしタオルがないぞ。隠せない」

兼「隠す気だったのか?」

三「え、隠さない気だったのか?」

兼「隠さないだろう。男同士でなにが恥ずかしい」

三「そこは最低限のマナーとかモラルとかが必要になってくる重要な峠だと思うのだが」

兼「そんなものは今さっき越えた」

幸「……あ、兼続殿がいつのまに全裸に」

兼「ぜっ、全裸と言うな! とたんにやらしい。すっぽんぽんと言ってくれ」

三「あ、兼続のすっぽん」

幸「……」

三「……」

兼「いや続きを言ってくれ! なんだかおそろしくハレンチなものを連想してしまう!」

慶「なー、風呂行かねーのー?」

三「あ、左近。いつのまに全裸で慶次と仲良くなってるんだ」

左「剥ぎ取られたんですよ! 殿が隠す隠さない言ってる間に!」

幸「あ、私見てましたよ。島殿のおっしゃってることは本当です」

左「ええ本当、見ていましたよ幸村殿は。どんなに左近が助けを求めても見ているだけでした」

兼「ほら三成も幸村も。寒いからはやく風呂。風呂」

三「せめて脱衣所で脱いでくれ。こんなところを家臣たちに見られたら俺は爆発する」

幸「それにしても、兼続殿は裸でも清潔感がありますね」

兼「だろう? 脇も足も腹の毛だってちゃんと剃っているからな。ツルプニだ」

三「俺の好みじゃない」

兼「だろう? 素敵だろう?……はい?」

三「俺はあっちのほうが好きだ」

慶「お、そうかい? 嬉しいねえ」

左「ところでそろそろ全裸も慣れてきました」

兼「毛深いのが好きなのか?」

三「うん」

幸(よかった、剃ってなくてよかった)

慶「でさー、風呂はー?」

兼「というかさっさと脱げ」

幸「ちょ、やめてください。どこ触ってんですか。訴えますよ」

三「風呂か……。困ったな、今日は客人が来る予定だったのだがなあ」

兼「え?」

慶「まじ?」

左(そうだっけ?)

三「う、そ」

兼「なんだあ、うそかあ、焦ったあ」

三「まあともかく、風呂場まで人目につかぬように移動するか今すぐ服を着てくれ」

兼「えー、風呂入るのにまた服着るのー?」

幸「じゃあお風呂はやめて、最初にいったアレ、実行しますか?」

兼「裸の付き合いについて、か?」

三「……それって恋人同時が夜に同衾してあんなことやこんなことをするやつ?」

兼「じゃなくて、お互いの肉体美を」

慶「風呂がいい。風呂のほうが傾いてる」

左「なんでもいいから左近の着物返してください」

三「……困ったな。これではラチがあかん。風呂に入って肉体美を自慢するか」

幸(あれ、私余計なことを言ったかもしれない)

慶「お、じゃあ決まりだな。おらっ」

三「うおっ」

幸「わ」

兼「ははっ、慶次は力持ちだな」

慶「風呂いくぜ風呂ー!」




「え、ああ、私はよく知らないんだがね。あの日、ちょっと近くまで行ったものだから佐吉のところに顔を出しに行ったんだよ。それで今は客が来ているから少し待っていただけないかって言われたから、邪魔になるのもなんだから帰ろうかと思っていた矢先だった。ほとんど光を映さない瞳だが、まだぼんやりと形や色を捉えることはできる。でもね、あの時は本当に、私の目はおかしくなってしまったかと思ったよ。天下の傾奇者と呼ばれた裸で前田慶次殿が、裸の島左近殿と直江兼続殿、少し着衣の乱れた真田幸村殿、そしていつも通りきっちり着込んでいる佐吉を抱えて廊下を走り回っていたんだ。私は近頃、この瞳はもうすぐ機能を終えてしまうだろうと思って、たくさんの風景を心の中に刻むようにしている。だが、あれだけは忘れたい」






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