lost sight

義トリオと政宗が、自分の武器について論争する話









兼「は!」

政「ぎゃ!」

兼「……またつまらぬものを斬ってしまった」

政「貴様、味方を攻撃しておいて謝罪の一つもできんのか!」

兼「おや、どのお口がそんなことを言うのかね」

政「このうるおいたっぷりの愛らしい口じゃ!」

兼「はて、どこにあるのかな?」きょろ

三「兼続、どこを見ている。ここだ、ここ」

幸「なんですか?」

兼「お、あったあった。確かにうるおいたっぷりで愛らしい」

幸「え、あ、ありがとうございます」

政「わしを無視するな!」

兼「今、負け犬の遠吠えが聞こえたな」

三「うん、聞こえた」

幸「え、どこからですか?」

政「そんなこたどうでもいいからまず謝れ、兼続」

兼「伊達くんごめんなさい」

政「もっと心をこめて!」

兼「うるさいだまれ!」

政「そうだ、それくらい心を……ってアホかー! ノリツッコミなんてアホかー!」

幸「……どうしましょう。ちょっとうるさいですね」

三「そうだな、うるさいな」ドボクッ

政「あっ、いたっ……、お前の武器は地味に痛いからやめて」

兼「地味に痛いとか言うな。三成の武器は美しさと攻撃力を兼ねそろえた素晴らしい武器ではないか」

三「そうだぞ。そして重いから訓練にもなる。日々鍛錬を怠るな、がモットーだ」

幸「素敵な武器ですね」

政「いや」

兼「え?」

政「おかしいだろ、扇子が武器って」

三「扇子なだけにセンスがよいのだ」

政「いやおもしろくないけど」

三「……」

兼「山犬よ、詳しい話を聞こうか。そうだな、ゆっくり話せる場所がいい。そうだ、樹海へ行こう」

政「扇子が武器っておかしいと思わんのか、お前ら」

幸「思いませんよ?」

政「いや思え」

兼「なんの権限があって私を無視し、幸村に命令し、三成を貶すのかな?」

政「だっておかしいだろ。効率を考えても普通はそんなもん使わん」

幸「ああ、たしかにリーチが短いですからね」

三「投げれば長くなる」

政「投げて戻ってくる間に攻撃されたらどうするんじゃ」

三「……そ、そういうお前だって色々変だ」

政「わしのどこが変なのじゃ」

三「重力を無視した跳躍とか、弾薬の数とか」

政「それだったらもっとおかしいやつがおる」

兼「……私は義と愛に加護されている。お前と一緒にされては……ふっ、たまらんな」

幸「それでしたら、私が一番普通ですね」

三「……いや、うん、そうだな。どこから言ったらいいかな」

政「空中で攻撃しながら浮上する原理がわからん」

兼「まて二人とも。もともとの議題は武器についてで、攻撃方法についてではない。それは本末転倒と呼ぶ。山犬の疑問に関してだが、幸村は天使だから飛ぶことができる。以上だ」

政「兼続、いい加減幸村を人間として認めてやったらどうなんじゃ」

兼「……」

三「……」

政「ええい! 二人して死んだアリを眺める子供のような顔をするな!」

兼「違うな。これは鼻毛が出ている山犬を見る顔だ」

政「え、うそ!」

兼「……ふっ。誰も、伊達政宗とは言っておらんよ」

政「……騙したな」

兼「勝手に勘違いしただけではないか」

政「なんかもうお前ら相手にしていると疲れるわ」

三「そうだな。引き綱をやたらと引っ張る犬は面倒だ。兼続、もっとちゃんと躾なくてはダメではないか」

兼「ああすまない。よく言い聞かせておく」

政「なに? お前、犬を飼っているのか?」

幸「……」ニコッ

政「な、なんじゃ……、その笑顔は……」

兼「お前が天然ボケでも腹が立つだけだ。せいっ」

政「のあっ! いきなりなにをするんじゃ! お前の武器は反則!」

兼「愛によって加護された剣、義によって加護された札。かたや不義によって扱われる剣、利のために轟く銃。義に反則はないのだ」

政「……お前らの義ってよくわからんから嫌いだ」

幸「義を嫌うなんて!」

三「ところで、お前はなぜここにいるのだ?」

政「え?」

三「こちらは主に西軍諸将によって編成された陣営だ。なぜお前がここにいる?」

政「……イケメンだから?」

兼「イケメンどっこだー?」

幸「ここです、ここ!」

三「そうだ、俺だ」

兼「お、確かにイケメンだ」

政「お前らの義は他人を無視することを許しているのか!」

三「……まあ、なんつうか? 義ってさ、人によって違うものだと思うんだよね? ん? わかる? だからね、俺たちの義っていうのは、誰から見ても義に見えるわけじゃないと思うんだ」

政「そんな不平等な義なんて捨てちまぼれっ!」ドボクッ

兼「おいたが過ぎるぞ。その自称イケメンなお顔に大事件が起きるぞ」

政「もう起きた。すでに過去のこととなった」

幸「残念ですが政宗殿……、今回の件は兼続殿の正当防衛が認められてしまいますので、私はなんの力にも……」

政「今のが正当防衛? 一方的な傷害事件ではないか! 万に一つ防衛が認められたとしても過剰防衛じゃ!」

兼「うるさいだまれ!」ビュン






01/29
(なんだかだんだん山犬が愛しく思えてきた)