(シリアルCHILD PLAY番外)

「政宗さん、恋のスペシャリストと見込んでお話します。私のこのドキドキは恋なのですか?」
「……いや、そんなこと知らんし。というかわしはスペシャリストなんかじゃない」
「でも恋をしてらっしゃるではありませんか!」
「恋? わしが? 誰に? あん? 言ってみ?」
「恋です。政宗さんが。片倉先生に。言いました」

 聞かれたことにすべて答えたら、政宗さんがこめかみに青筋を浮かべて指をパキリと鳴らしました。そこで私はようやく政宗さんがご立腹であると気付きました。しかし時既に遅し。私は政宗さんの八つ当たりのゲンコツをいただいてしまいました。とても痛いです。しかし政宗さんも私を殴った手を痛そうにさすっています。なるほど、殴る手も痛いとはこのことです。
 殴られたからといって引き下がる私ではありません。政宗さんが殴るときはたいてい照れ隠しや図星であるからということを長い付き合いの中で学んだのです(しかし痛い)。

「でも、政宗さん……恋人がうんたらって……」
「そんなことでよくもまあ短絡的に好きってことに繋げられるもんだ。ある意味ソンケー。わしが貴様をソンケーするのだぞ。もっと嬉しそうな顔をせんか」
「褒められてる気がしません」
「褒めとらんから当たり前じゃ」

 褒められていないのになにを嬉しそうにしなくてはならないのでしょうか。政宗さんの言うことはいまいちわかりづらいので疲れます。

「わしのことはどうでもいい。んーで?」
「はい?」
「最初に言っとったじゃろ。幸村恋しちゃったかも! って」
「そんな言い方じゃありません。私のこのドキドキは恋なのでしょうか、と」
「そんなこたわあっとる。で、相手は?」

 年頃なのか、それとも私の初恋だからなのか、政宗さんは興味津々に身を乗り出します。でも表情にあまり真摯さはなく、これをネタに精一杯からかってやろうという気持ちが見え隠れしています。なんだか無性に腹が立ちます。あまり怒ったことはないのですが、私の初恋(かもしれないもの)をおもちゃにされるような不快感を覚えました。
 ちょいちょい、と耳を寄せるように合図すると、政宗さんは「ん? なんじゃなんじゃ。恥ずかしいのかあ。わしがたんと聞いてやるぞ」と、それはそれは楽しそうに言いながら耳を寄せてきます。
 そこで、思いっきり息を吹きかけてやりました。政宗さんはもんどりうって耳を押さえうめき声をあげます。

「貴様……、なにをするのじゃ!」
「からかわないでください。私は真剣なのです」
「お前が恋だって? んなわけあるかい。長い付き合いのわしが言うのだから間違いない。お前は恋などしとらん」
「でも」
「お前はまだまだ恋のこの字も知らんような青臭いガキなんじゃからな。……あー、耳がキモイ。帰る」

 政宗さんは本当に早退してしまいました。……どうやら怒らせてしまったようです。
 滞りなく授業を終え、部活で好きなだけ練習をして家に帰った私は、やたらと兄さんと小兄さんに心配されてしまいました。

「元気がない」
「なんだか目が死んでいる」
「私のかわいい弟よ、いったい何があったというのだ?」
「ああ、わかった。またあのいけ好かない眼帯をしたガキだろう。今度はなにを言われたのだ?」

 代わる代わる私の顔を覗き込みながら、私が口を挟む隙もなく質問攻めにあいます。答えたくても答えられません。けれど、それだけ心配してくれているのだと思うとなにも言えず、結局私は質問攻めに甘んじているわけです。
 何分かその状態が続き、ようやく兄さんが、「まて三成。あまり質問しても幸村が答えられない」と言ったのをきっかけに、私は口を開く場所を与えられました。

「まずはじめに、なにがあったのだね?」
「あの……」
「焦らなくていい。ゆっくり話せ」
「はい。あの、最近、ある人を見ていると胸がドキドキするのです。で、これはもしや恋と呼ばれるものなのではないか、と思い、政宗さんに相談したのです」
「なぜ」
「え?」
「なぜ兄さんに相談しない! いや兄さんでなくてもいい。だがよりによってあの山犬に、なぜ!」
「兼続、落ち着け。近い年頃のほうがいいこともあるかもしれない。だが、あの小僧はミスキャストだ、幸村」

 兄さんと小兄さんは、不思議なことに私の恋の話よりも私が恋の話を政宗さんに相談したことに驚いています。昔から兄さんたちは政宗さんのことをあまりよく思っていないということは知っていましたが、どうしてなのでしょう。しかし兄さんたちにどんなに言われても、私は政宗さんの友達です。これだけは譲れないことです。
 二人とも政宗さんのことでぶつぶつと文句を言っていましたが、ふっと私の顔を見つめ、声を合わせて首をかしげました。

「恋?」

 さすが双子です。息も動作もピッタリです。
 正直今さらそこに着目するのですかと思いましたが、そこは今回、あまり関係がないのではぐらかすに限ります。

「はい。でも元気がないのはそれは関係ありません」
「やっぱり山犬になにか言われたのか」
「いえ、なにか言われたといいますか……」

 そこで私は、あのときのやり取りを二人に伝えました(政宗さんの言葉遣いは、そのままだと兄さんたちがまた心象を悪くすると思い、幾分かやわらかなものにしました)。
 私は兄さんたちに聞かれたから答えただけで、解決策を望んでいるわけではありません。政宗さんを怒らせてしまったのは私ですから、きちんと私が私の言葉で謝ります。ただ、心配していただいているのですから理由だけでも話したのですが、小兄さんは頭を抱え、どんよりとした雰囲気を漂わせました。兄さんが懸命になにやら声をかけています。

「三成、大丈夫だ。そんなことには私がさせない」
「あの、なにかあったのですか?」
「え、あ、幸村……。ええと、お前にはわからないことだから」

 兄さんはしどろもどろにそう言いました。私にはわからないこと。
 なんだか今日は、私はなにもわからないとよく断定される日です。たしかに私にはわからないことがたくさんあります。ですが、そう決め付けられるとなんだか悲しいものがあります。

「小兄さんは悩んでおられるのでしょう? たしかに、私にはわからないかもしれません。でも話を聞いて、励ましたり、そんなことくらいしかできないでしょうが、それでも些細なことはできると思います」
「……ああ、すまん。言い方が悪かった」
「幸村、もう山犬には近づいてはならん」
「え、なぜですか?」
「あいつが犬で、お前は猫だからだ」

 なんなんでしょう、それは。小兄さんは不思議なことを言って、表情を曇らせながら自室へこもってしまいました。
 困った私は兄さんを見たのですが、兄さんもまた浮かない顔をして、ため息をつきながら台所へ向かってしまいます。
 なんなのでしょうか?







01/23
(チャイプレの続き)