ひとにぎりの優しさ
直江に優しい幸村(と三成)
三「かねつぐ、かねつぐ」
兼「ん?」
三「兼続って頭もいいしセンスもあるよな?」
兼「……そうだな、私の頭を見ればなんとなくわかるだろう」
三(……頭は悪くなさそうだがセンスは悪そう……な兜だ)
兼「まあこんなところだ」
三「まあこの際センスが悪くてもいい」
兼「センス悪かったのか、この兜」
三「まあ悪いと言うよりも異質って言ったほうが正しい」
兼「異質だったのか、私の兜は」
三「ああまあそれは置いておこう。そんなワンダフルドリーマーな兼続に聞いてみたいことがある」
兼「言ってみ」
三「キャッチフレーズを考えてほしい」
兼「キャッチフレーズ」
三「そう」
兼「なんの?」
三「……主に左近の」
兼「ふむ……。島殿の。ギャグバージョンとシリアスバージョンがあるけどどちらがいい?」
三「真剣に頼んでいるのでシリアスで」
兼「ふむ。シリアスな……。アポロが月から連れてきたオッサン・島左近、とか」
三「シリアス?」
兼「なんか、こう、言いようのない悲壮感が漂っているだろう?」
三「あらゆる意味で」
兼「どう言ったらいいんだろうな……。故郷から強制送還されてしまったかわいそうなオッサン……、月でウサギと仲良くしていたオッサン……、なんだかとても悲しい」
三「そういう意味か」
兼「他に……どうだろうな。紙一重でモミアゲ島左近、とか」
三「確かに紙一重かもしれないけれど。うっかりしたら髭になっちゃうかもしれないけれど」
兼「ああ、月の王子様中辛島左近のほうがよかったか?」
三「微妙だな」
兼「シマサコンを反対から読むとンコマサシ。スケコマシになんとなく似ている島左近」
三「そんなネガティブキャンペーンなキャッチフレーズって」
兼「いきなり言われてもなあ……。打破・格差社会、とか」
三「格差社会のちょっと上のほうにいる左近が?」
兼「だって政治ってそういうもんじゃないか」
三「……疲れているのか?」
兼「ちょっと」
三「がんばってもっと考えて」
兼「今日も大筒が空を裂く」
三「わ! なんかカッコいいぞ!」
兼「大筒いいか?」
三「いい」
兼「じゃあ大筒で考えるか」
三「俺の大筒に勝るものなし」
兼「大筒キャンペーン、島左近福袋」
三「モミアゲ長き島左近に勝る者なし」
兼「今日は……暑くなる」
三「……ふむ、なんだかおもしろい感じのキャッチフレーズでいいな。ありがとう兼続」
兼「いや。そうだ、ついでだから三成のキャッチフレーズも考えるか?」
三「俺の?」
兼「佐和山ごんぎつね、とか。戦場のごんぎつね、とか」
三「……お前、ごんぎつねが好きなのか?」
兼「泣ける」
三「……そうか。でも俺はごんぎつねじゃない」
兼「知ってる」
幸「みーつーなーりーどーのー! かーねーつーぐーどーのー!」
三「あ、幸村だ」
兼「……レッドエンペラー幸村、とか」
三「おお、強そう」
幸「なんのお話ですか?」
三「キャッチフレーズを考えていたのだ」
幸「キャッチフレーズを……。智勇兼備の快哉青年、直江兼続、みたいな感じですか?」
兼「!」
三(すごくマジメなキャッチフレーズだ)
兼「幸村……」
幸「へ? あ、はい、なんですか?」
兼「三途の川の水先案内人、真田幸村、で、どうだ」
幸「どうだと言われましても……」
三「まあ、とりあえず、カッコいいキャッチフレーズをありがとうって意味だと思うから素直に受け取ればいい」
幸「はあ、ありがとうございます」
兼「なんだか久しぶりに褒められたような気がする」
幸「それで、私が来る前は誰のキャッチフレーズを?」
三「主に左近だ」
兼「たくさん考えたぞ。センチメンタルサザンクロスとかな」
三「うん、そんな雰囲気の」
幸「へえー」
兼「で、三成のを考えていた最中なんだ」
三「こいつごんぎつねとかそういうのばっかり言って……、幸村、なんだその『あ』って顔」
幸「ごんぎつねはタブーでしたか」
三「お前もごんぎつねが好きなのか」
幸「泣きました」
三(ごんぎつねってそんなに泣ける話だったのか……)
幸「そうですねえ……三成殿のキャッチフレーズ。草原に咲くセンチメンタル!」
兼「あ、それカッコいい」
三「うそ!」
幸「嘘じゃありません」
兼「それもカッコいいな。幸村ってセンスいいな」
三「幸村がそんな子だったなんて……」
幸「島殿は、大地を隔つインターナショナルって感じしますよね」
三「なんというインスピレーション」
兼「しかし幸村にキャッチフレーズを考えてもらったほうがよさそうだな。なあ、三成」
三(だめだこいつ、早くなんとかしないと……)
01/09