越権行為
「オロチサコトノ曹丕巻き込み話」
丕「あの男とはもう会うな」
三「あの男?」
丕「左近とかいう男だ」
三「……曹丕、お前、年頃の娘を持った父親みたいだぞ。熱でもあるのか? なんなら俺が子守唄でも歌ってやろう」
丕「寝たくても寝れなくなる」
三「俺の美声に興奮するのか?」
丕「その自信過剰、どこから沸いてくるのか調べてみたい」
三「過剰ではなく、事実だから調べても見つからないと思うが」
丕「……。ともかく、今後あの男と会うことは私が許さん」
三「嫌だ」
丕「嫌だって……、お前は年頃の娘みたいな反抗を……」
三「嫌なものは嫌なのだ」ぷん
丕「ぷんって。ぷんって。お前、自分の年齢を考えたことあるのか?」
三「俺は永遠の二十歳だ」
丕「二十歳でもそれはきついだろう」
三「なぜ左近と会ってはならぬのだ。あいつは俺のものだからいつ会おうとお前に止められる筋合いはない」
丕「いいや、今の私は魏を指揮する人間だ。兵の士気に関わることを牽制する権利がある」
三「俺と左近が会うと兵の士気が低下?」
丕「ああ、そうだ」
三「……俺の美しさに惚れた兵たちが衝撃を受ける……のか?」
丕「その自信過剰、どこから沸いてくるのか調べてみたい」
三「過剰ではなく、事実だから調べても見つからないと思うが」
丕「……。わからないほど愚かではないと思っていたが、それは過大評価だったか」
三「わかっているぞ。ばかにするな」
丕「ほう、三成にわかるのか。それはすごいな。お前は天才だ。あっぱれだな。これほど頭のいい人間も珍しい。しかし私の参謀には決してならないでくれ」
三「それをばかにしている発言だということもわかっているぞ。……つまり、俺が敵と密通していると思われる可能性があるということだろ。それくらいわかるぞボケ」
丕「わかっているなら早い。あの男とは」
三「こ、と、わ、る」
丕「三成……。良い子だから聞き分けてくれ」
三「またばかにするかクソ親父」
丕「ならば、どうしたら理解するのだ」
三「……左近との交際を正式に認めてくれればよいぞ」
丕「はあ? そんなのそっちで勝手にすればよかろう。私には関係ない」
三「そう。曹丕には関係ないのだ。だから気にするな」
丕「それとこれとでは話が違う」
三「むう……、物分りの悪いやつだ。さっこーん!」
丕「それは私の台詞……」
ばたーん!
左「とっのー!」
丕「……」
三「左近、よく来てくれた。褒美に豆をやろう」
左「わあい、うれしい」
丕「城の管理体制を見直さなくてはならんな……」
三「見ろ曹丕、豆をもらって喜ぶ人間が敵のはずないだろう」
丕「その価値観はいったいどこから」
左「そうですよ。豆をもらって喜ぶ俺が敵のはずないじゃないですか」
丕「お前ら主従の息がピッタリなのはわかったが、豆好きのやつに悪いヤツはいない理論が理解できん」
三「豆で納豆ができる」
丕「で?」
三「……っ、さ、左近……。あいつ、手ごわい!」
左「納豆が駄目なら豆腐にすればいいジャナーイ!」
三「豆で豆腐ができる」
丕「で?」
三「っ、だっ、だめだぞ! どうしよう、左近!」
左「豆腐がだめならずんだにすればいいジャナーイ!」
三「ずんだもできる」
丕「だからなんだ」
三「さっ、さこ!」
左「食べ物がだめなら慣用句にすればいいジャナーイ!」
三「戸板に豆、というだろう」
丕「……つまり、思い通りにいかないということか。で、どうして豆好きのやつに悪いやつがいないのだ?」
三「さこ……! 俺、そろそろ曹丕に勝てない気がしてきた」
左「慣用句が思いつかなければ実体験を語ればいいジャナーイ!」
三「……曹丕」
丕「なんだ」
三「俺は、豆が好きなんだ」
丕「……」
丕(そうか、豆好きのやつは意味がわからないんだ)
曹丕は知識がひとつあがった。
08/24